(2015.11.1)

 

 

昨秋の今頃、アメリカ西部のいわゆるグランドサークルを周回し、その様子を「アメリカ感動の旅」と題してご覧いただきました。また、一昨年の5月にはワシントンDCからニューヨークにかけての東海岸の様子もご覧いただきました。

今秋はグランドサークルの北方、ワイオミング州とコロラド州を中心とした地域を、10日間ほどかけて周遊してきたので、その模様を「アメリカ感動の旅
Season3」と題して、3回程度に分けて(予定)ご覧いただくことにします。 
周遊地域の全体は下(↓)の地図をご参照願います。黄色の点線で囲った円内は昨秋に周回したグランドサークルです。今回は、ソルトレークシティ(ユタ州)を起点に、グランドティトン国立公園(ワイオミング州) → イエローストーン国立公園(同) → デビルスタワー国定公園(同) → マウントラッシュモア国定記念物(サウスダコタ州) → ロッキーマウンテン国立公園(コロラド州)を周遊し、デンバー(同)から帰国しました。

大まかにいうと、ロッキー山脈を挟んで、西側のソルトレイクシティから東側のデンバーまで、時計回りに
1,672マイル(約2,690q)を走行しました。

今号では「前編」として、グランドティトン国立公園の様子を中心にご覧いただくことにします。
現在、ソルトレイクシティへは日本からの直行便がないため、ロサンゼルス、サンフランシスコ、シアトルなどで乗り換える必要があるので、まず、成田から全日空(NH-008)でサンフランシスコへ向かいました。


サンフランシスコでユナイテッド航空(
UA-1612)に乗り継いでソルトレイクシティへ向かいます。機材はB737-900(↓)です。
ソルトレイクシティはユタ州の州都で、モルモン教徒が拓いた美しい街です。ロッキー山脈を間近に望む高原(標高1,320m)にあって、2002(平成14)年には冬季オリンピックが開催されたのでご記憶の方もおられるかと思います。

市の西側に拡がる大塩湖(グレートソルトレイク)を眼下に眺めながら空港へ進入します。

ソルトレイクシティから高速道路15号(I-15)を一路北上します。ちなみに、「I」の符号がつく高速道路はInterstate Highway(州間高速道路)のことで、米国の基幹道路網を構成しています。最高速度は州によって異なっていて、このあたりは80マイル(約130km)ですが、皆さん意外に(失礼!)マナーがよく、どこでもキチンと制限速度を守って、お行儀よく走行されていました。

(昨秋の反省もあり)今回は走行距離が長いため、前回より少し大型の車を借りることにし、フォードのエッジ(Edge)という車にしました。

SUV
のためセダンより運転席が高いのでロングドライブでも疲れが少なく、排気量も3.5Lあるため(それでも、アメリカでは中型)パワー不足を感じることはありませんでした。
ソルトレイクシティから300マイル(約480km)、5時間ほど走って、ジャクソン(Jackson)という町へ着きます。 ここは、最初の訪問地であるグランドティトン(Grand Teton)国立公園のゲートシティともいうべきところです。
町の中心部に小さな公園があって、エルクという鹿の角を積み重ねたアーチ(Antler Arch)が有名です。
エルクはこのあたりではポピュラーな野生動物で、今回の周遊でも至るところで普通に見かけました。

アーチの中央部にぶら下がっている少し形状の変わった角はムース(ヘラジカ)のもので、片方で10kg以上あるといわれています。
園内の説明板によれば、早春に抜け落ちた大量の牡鹿の角を、近くのエルク保護区でボーイスカウトが拾い集め、この公園でオークションにかけられている、とあります。誰が買うのかと思いますが、最近では漢方薬の原料として、アジア方面で人気が高いようです。

ジャクソンの町からから20分ほどでグランドティトン国立公園の南口へ到着します。

お隣のイエローストーン国立公園と共通の入園券があって、乗車人数にかかわらず1台50ドルで、1週間有効なので、右(→)のレシートを車のフロントガラスへ貼っておけば、その間の出入りは自由です。

ちなみに、入園料は今年から一挙に2倍以上($20→$50)値上げになりました。

園内の周遊コースは上(↑)の地図を参照願いますが、園内のティトン・パークロードと、園外の国道26号(ジャクソンホール・ハイウエイ)を周回しながら、見どころを巡るかたちになります。
グランドティトン国立公園は、我が国ではあまり馴染みがありませんが、ティトン山脈を間近に望みながら南北に拡がる園内は「全米一美しい国立公園」といわれ、来場者数ではずっとベスト10に入っています。
これはトランスフィギュレーション礼拝堂(Chapel of the Transfiguration)という建物で、公園南口からすぐの場所にあります。

この一帯には、19世紀の後半に入植した開拓者の遺構がたくさん残っていますが、この礼拝堂もそのひとつで、草原の中の素朴な丸太づくりの建物は、当時の人々の厳しい生活と篤い信仰を今に伝えています。

内部も公開されていて、祭壇の向こうにはグランドティトンの山々を仰ぎ見ることができ、思わず敬虔な気分になります。

まさに額縁に嵌め込まれた一幅の絵画…。

ここはメナーズフェリー(Menor's Ferry)という場所で、礼拝堂から歩いて5分ほどの川岸にあります。
19世紀末にビル・メナー(Bill Menor)という人物がここに居を構えて、渡し舟を往復させていたところで、復元された舟とともにいくつかの建物も残っています。

ティトン山脈の麓に点在する大小7つの湖は、公園の景観に潤いを与えていますが、そのひとつのジェニーレイク(Jenny Lake)へ立ち寄りました。

湖岸からシャトルボートが出ていて、対岸の小滝や氷河時代の痕跡が残る渓谷を巡るトレッキングコースを辿ることができます。

このほか、公園全体では延べ300km(!)に及ぶトレッキングコースが整備されていて、聞くだけでも気が遠くなるようなスケールです。

公園のほぼ中央にあるシグナルマウンテン(Signal Mountain)という丘陵(2,335m)からの眺望です。

眼下に横たわるのはジャクソンホール(Jackson Hole)という谷(正確には地溝帯)で、その中央部をスネークリバー(Snake River)が南流しています。

こちらはその反対側(西側)の眺望で、ティトン山脈の第2の主峰、モラン山(Mt. Moran 3,842m)の向こうに夕陽が落ちてゆくところです。明日からの好天を約束するかのような見事な夕焼けでした。

この日は、園内最大の湖、ジャクソンレイクの湖畔に宿泊し、満天の星空を撮影しました。湖水の向こう(画面やや左寄り)にモラン山の山体が見えています。

翌朝は0℃近くまで冷え込み、ロッジのFire Placeで暖をとりました。この辺りは秋が短く、ほとんどの施設が9月下旬から10月上旬で営業を終了し、冬季休業に入ります。グランドキャニオンなどがあるグランドサークルに較べて、1ヶ月早いシーズン終了ということになります。ちなみに、このロッジも10月18日で今季の営業が終了しました。
翌朝は朝霧が立ちこめて視界が利かないため、霧が晴れるのを待つ間、近くの水辺を散策しました。

このあたりは、スネークリバーが林間を緩やかに蛇行するところで、オクスボーベンド(Oxbow Bend)という名前がついています。

深い木立の中に黄葉が静かに色づいて、野生動物の気配が身近に感じられる所でした。

日差しが出てきたので、国道26号(ジャクソンホール・ハイウエイ)を南下します。

草原の中で群れているのはバイソン(バッファロー)です。バイソンもこの辺りではポピュラーな野生動物で、今回の周遊でも至るところで普通に見かけましたが、一般にこうした大型の動物は100ヤード(約91m)、その他は25ヤード(約23m)以上離れるよう求められています。
ここは1880年代にニューヨークからやって来たカニンガムという人物が牧場を経営した場所で、カニンガムキャビン(Cunningham Cabin)と呼ばれる当時の(!?)納屋(↑)が現存するほか、いくつかの建物の基礎や柱の跡などが残っていて、開拓当時の暮らしぶりをうかがうことができます。

ジャクソンホール・ハイウエイは公園(外)の東側を走る国道ですが、沿道の両側にはワイオミングらしい雄大な景色が続き、随所に展望のための駐車場(Turnout)が設けられていて、ついつい立ち寄ってしまうため、時間ばかりかかってなかなか前へ進むことができません(笑)。

ここもそうした展望台のひとつで、スネークリバーオーバールック(Snake River Overlook)といって、ティトン山脈の主峰、グランドティトン山(Mt. Grand Teton 4,197m)をバックに、スネークリバーを見下ろすフォトスポットです。
カメラ位置が低いのでよく分かりませんが、画面中央の左右に連なる林のあたりをスネークリバーが右から左へ流れていて、その両岸が3段の雄大な河岸段丘になっています。正面奥はグランドティトン山です。
ロッキー山脈は大陸移動による褶曲活動で造山されたことから、どちらかというと女性的な山容なのに対して、ティトン山脈は手前の平地が山地の下に潜り込むかたちで隆起してできたため、ゴツゴツとした姿かたちとともに、比高2,000mの山体が眼前に立ちはだかるという、アメリカでは珍しい景観を見ることができます。
ここはジャクソンホール・ハイウエイを更に南下し、公園南口の近くを東側へ入ったアンテロープフラット・ロード(Antelope Flats Road)というところです。
このあたりは19世紀に入植したモルモン教徒の住居跡が残っているところで、西部劇映画「シェーン」(1953年、パラマウント映画)のロケが行われたところでもあります。
映画のラストシーンで、馬に跨がって去って行く主人公シェーン、その向こうに聳えるグランドティトン山、こだまする「Shane Come Back !」の呼び声…、ご記憶の方も多いことと思います。あれが「ここ」です(笑)。



公園南口から再度入園してストリングレイク(
String Lake)を目指します。このあたりは、グランドティトン山が車窓いっぱいに拡がり、園内道路(ティトン・パークロード)の白眉というべき区間です。

この区間の走行ビデオ(↓)を添付したので是非ご覧ください。「助手」が車内から手持ちで撮影した映像のため、画面が不安定でお見苦しい点はご容赦願います。
のマークをクリックすると動画(3分43秒)が始まります。
ストリングレイクは、お隣のリーレイク(Leigh Lake)と、先に立ち寄ったジェニーレイクと、3つが水路でつながった可愛い湖です。
これらの湖畔にもたくさんのトレッキングコースが整備されていますが、ストリングレイクからリーレイクまで、林間の小径を往復2時間ほど歩きました。

湖水の向こうに聳えるのはグランドティトン山です。
湖と森と山が織りなす素晴らしい景観は、どこかヨーロッパのそれに通じるところがあり、アメリカに居ることを忘れてしまいそうでした。



…ということで、グランドティトン国立公園はおしまいです。
いかがでしたでしょうか?

次号は中編として、イエローストーン国立公園の様子をご覧いただきます。
引き続きのお立ち寄りとご笑覧をお願いします。