(2015.11.15)

 

 

 

今回は、前号に続き「アメリカ感動の旅
Season3」の中編として、イエローストーン国立公園の様子をご覧いただきます。
イエローストーン国立公園は、1872(明治5)年にアメリカで最初の、そして世界で最初の国立公園として誕生しました。我が国では明治維新の余塵が未だ燻る時代に、まだ太古の森が拡がるばかりのこの地域に分け入り、原始景観の保全と環境の保護を政府に訴え、T.ルーズベルト大統領(Theodore Roosevelt)やロックフェラー(John D. Rockefeller, Jr.)などの先見的な政治家や富豪の理解と協力を得て、これを国立公園という「システム」に築き上げていった人々がいたということに、今さらながらアメリカの偉大さを痛感します。

ちなみに、イエローストーン国立公園は、1978(昭和53)年に世界自然遺産にも登録されています。このほかにも、グランドキャニオン国立公園やヨセミテ国立公園など、全米で13箇所が世界自然遺産に登録されていますが、それを謳った案内や看板の類はほとんど見かけません。我が国では、毎年、世界遺産の登録をめぐって大騒ぎになりますが、世界最高の国立公園システムを自認するアメリカとしては、世界遺産はあまり眼中にないように見受けました。

イエローストーン国立公園は、前編でご覧いただいたグランドティトン国立公園の北に隣接し、ほとんどの来場者が両公園を周遊しますが、グランドティトンは森と湖と山の見事な調和が特徴なのに対し、イエローストーンは豪快な間欠泉や色鮮やかな熱水泉といった地球の息吹を間近に体感できるのが特徴で、大きく趣を異にする両者の景観は、いつまでも訪れる人々を魅了して已みません。
園内の周遊コースは上(↑)の地図を参照願いますが、公園は南北63マイル(約102km)、東西54マイル(約87km)、面積約9,000平方キロあり、先号でご覧いただいたグランドティトン国立公園の7倍、東京都の4倍、四国のほぼ半分の大きさ(!)に匹敵します。園内には8の字の周回道路があって、外周部分は一周すると141マイル(約226km)あります。

このため、1日ではとうてい回りきれず、管理人は2日間滞在しましたが、それでも予定していた場所で時間が足りなかったり、予定していなかった場所でも見どころが多かったりで、後ろ髪を引かれる思いで切り上げたり、通過したりした場所が少なからず、「せめて4日間くらいは滞在したいな…」というのが、現地を訪れた偽らざる実感でした。

今回、管理人は南口から入園して、園内を時計回りにほぼ3/4周し、東口から退園しました。時計の文字盤にたとえると、6時の位置から入って、9時(オールドフェイスフル) → 12時(マンモス) → ほぼ中央部(キャニオン)と回り、3時の位置から出たということになります。

まずオールドフェイスフル(Old Faithful)の周辺を散策します。

ここは、公園の南西部にあたり、有名なオールドフェイスフル・ガイザー(Old Faithful Geyser)をはじめ、1万を超す間欠泉が集まっているところで、ガイザーカントリー(Geyser Country)と呼ばれています。

ちなみに、「ガイザー」というのは間欠泉のことで、なかでもこのオールドフェイスフル・ガイザーは、イエローストーンのシンボルともいえる間欠泉で、毎回の噴出の間隔、時間、量がほぼ一定なことから、「Faithful=忠実な」という名がついたといわれています。

現在はほぼ90分毎に4万リットルの熱水を30〜55mの高さに噴き上げていますが、この時はあいにく雲が広がってしまい、噴気だか雲だか分からない写真になってしまいました。

オールドフェイスフル・ガイザーはじめ、主な間欠泉の噴出予想時刻はビジターセンターに掲示されていて、噴出が近づくとこうして見物の人がたくさん集まってきます。

オールドフェイスフル・ガイザーのほかにも、大小の間欠泉や熱水泉がそこかしこに散在し、それらを見学して回る散策路が縦横に通じていて、独特の景観をつくり出しています。
園内には全部で9箇所の宿泊施設がありますが、なかでも最も人気が高いのがこのオールドフェイスフル・イン(Old Faithful Inn)で、毎年、1年前の5月1日から予約の受付を開始しますが、ほとんど「即完」の状態のため、あとはまめにチェックしてキャンセルを上手く捉まえるしかないようです。
建物は1904(明治37)年に完成した世界最大のログキャビンで、オールドフェイスフル・ガイザーとともに、公園のシンボルともいえる存在です。
オールドフェイスフルから少し離れたところにも個性的な熱水泉がたくさんあって、水中に繁茂した藻類や沈殿した鉱物の色が、空の色と混ざり合って、色とりどりの表情をみせています。
これはサファイアプール(Sapphire Pool)という熱水泉で、深いブルーの色彩と高い透明度で有名です。
ここは、オールドフェイスフルから少し北上したところにあるミッドウエイ・ガイザー・ベイスン(Midway Geyser Basin)というところです。
これは、エクセルシオール・ガイザー・クレーター(Excelsior Geyser Crater)という直径100m近い熱水泉(↑)です。かつて(1880年頃)は活発な間欠泉でしたが、現在は噴出活動を停止しているものの、満々と熱水を湛えたクレーターからは、今も毎分15,000〜17,000リットルがファイアーホール川(Firehole River)(↓)へ流れ込んでいます。
ここは、エクセルシオール・ガイザー・クレーターに隣接するグランド・プリズマティック・スプリング(Grand Prismatic Spring)という園内最大・世界第3位(直径113m)の熱水泉で、その外縁部を中心に「超好熱バクテリア」のコロニーが形成されていて、まさに「プリズマティック」な景観をつくり出しています。
ここは、グランド・プリズマティック・スプリングの隣にあるターコイズ・プール(Turquoise Pool)という熱水泉で、文字通りトルコ石のような青緑色をしています。

ここは更に北上したロウアー・ガイザー・ベイスン(Lower Geyser Basin)というところで、ファウンテン・ペイント・ポット(Fauntain Paint Pod)という、ベージュや赤い色の泥がグツグツと煮えたぎっているマッド・ポット(Mud Pot)があります。別府温泉の地獄巡りにある「坊主地獄」のようなところです。
イエローストーン国立公園は、公園全体がロッキー山脈のまっただ中にあるため、「園内道路」といえどもいたるところで、隘路や険路を余儀なくされます。ここもそうした場所のひとつで、ゴールデンゲート・キャニオン(Golden Gate Canyon)というところで、マンモスカントリー(Mammoth Country)の手前に立ちはだかる難路です。
開通当初(1885年)はもっと狭隘な小径で、通行に難渋した様子が現地の案内板にあります。現在では上(↑)の写真のように改良されていますが、(よほど岩盤が安定しているのか)落石避けの設備が一切ないのが日本人的には気になるところです(笑)。ちなみに、この区間は標高が2,000m近くあり、11月の初旬から(翌春の)4月中旬まで冬季通行止めになります。

公園の北西部にあるマンモスカントリーというところへやって来ました。ここには、温泉水がつくりあげたマンモス・ホットスプリング(Mammoth Hot Spring)という石灰岩のテラスがあります。

温泉水に含まれる石灰成分が幾重にも堆積して棚田のような景観をつくりだしているもので、トルコのパムッカレ(Pamukkale)と同じ仕組みで形成された「石灰華段丘」です。
ちなみに、パムッカレは素足になって入れる一角があるそうですが、ここは遊歩道から眺めるだけで、立ち入りは厳禁です。
段丘の頂上からは石灰成分を含んだ温泉水が休みなく流れ出して、テラスの形状は日々変化しているといわれていますが、温泉水が枯渇するとテラスの色は途端に黒ずんでしまうとのことです。

これらのテラスには、それぞれに曰くありげな名前がついていますが、きりがないので割愛します。
遊歩道を歩いて散策するテラスマウンテン(Terrace Mountain)と呼ばれる地域と、さらにその奥にあるアッパーテラス(Upper Terraces)と呼ばれる地域に分かれます。
アッパーテラスの方がさらに活動が活発で、生成途上のテラスや、立ち枯れた木々など特異な景観を見ることができます。
テラスマウンテンの入口にあるリバティキャップ(Liverty Cap)という名の、高さ10mほどの自然の「塔」です。噴出した石灰成分が堆積して固まった「石筍」のようなもので、見方によっては人の顔にも見えることから、テラスマウンテンの番人とも言われています。
ここでもシマリスが冬支度に大忙しでした。

オールドフェイスフル地区より規模は小さいですが、マンモス地区にも宿泊施設や飲食物販のお店が集まっていて、園内で唯一、通年オープンのビレッジになっています。
また、ここでは道路や空き地などでエルクをたくさん見かけることができました。管理人は奈良の鹿を見慣れているので(笑)、町の中にいる鹿は珍しくありませんが、奈良の鹿より格段に大きいので迫力があります。
エルクの方も人や車に慣れているようで、別段関心を示しませんし、野生動物に餌を与えることが禁じられているので、(奈良公園の鹿のように)なついて近寄ってくることもありません。鹿のくせに(笑)泰然自若としていて、悠揚迫らぬ雰囲気があります。
ちなみに、これらの写真は望遠レンズで撮っているので大きく写っていますが、「100ヤードルール」(→)は守っています(笑)。
(以後の写真も同様です)

マンモスから5マイル(約8km)のところにある公園北口へ立ち寄ってみました。ここには、T.ルーズベルト大統領が1903(明治36)年に訪問した際に礎石を置いたという「ルーズベルト・アーチ」が建っています。アーチには「人々の恩恵と娯楽のために」と書かれた扁額が懸かっています。

余談ながら、太平洋戦争当時の大統領、フランクリン・ルーズベルト(Franklin D. Roosevelt)は、彼の遠縁(五従兄弟)にあたりますが、我が国との関係は対照的で、T.ルーズベルトの方は、1905(明治38)年のポーツマス条約(日露戦争後の講和条約)締結交渉において、日本とロシアの斡旋、調停の労を執ったほか、柔道に対する造詣や東郷元帥に対する兄事など、親日的な一面もあったようです。

マンモスからキャニオンカントリー(Canyon Country)へ向かいます。このあたりには、珪化木(Petrified Tree)といって、立ち枯れたまま化石化した木がたくさんありますが、そのうち道路の近くにある1本が柵で囲って「展示」されています。
ここでイエローストーン国立公園の山火事について触れておきます。このあたりは空気が乾燥しているため、毎年、大なり小なりの山火事があちこちで発生していますが、1988(昭和63)年のそれはかつてない大規模なもので、5月から11月まで燃え続けて、公園の36%(約3,000平方キロ)の山林が焼け野が原になりました。
これは、山火事も自然の摂理のひとつとして、積極的な消火活動を行わなかったことが一因ですが、植生の回復はたくましく、約四半世紀を経た現在、まだ立ち枯れた木々がたくさん残る中で、焼け跡に芽吹いた松の若木がグングン生長している様子を見ることができます。
ちなみに、この松は「ロッジポール松」という名前で、園内の林の80%がこの木です。ロッジポールという変わった名前は、かつてアメリカン・インディアンのテントの構造材、つまり小屋の柱(Lodgepole)に多用されたことに由来しています。

このあたりは、公園の北東部にあるルーズベルトカントリー(Roosevelt Country)というところで、野生動物に出会うことが多い一帯ですが、さっそく道路沿いの林間でバイソンを見つけました。 バイソンは群れで行動することが多く、我が物顔で道路を闊歩して渋滞の原因になることも珍しくないようです。

このあたりは、ルーズベルトカントリーからキャニオンカントリーへ向かう途中のダンレバン峠(Dunraven Pass)という難所で、標高が2,706mあるため10月の中旬から(翌春の)5月の下旬まで冬季通行止めになります。ちなみに、イエローストーン国立公園自体も、今秋は11/2でもって今季の営業を終了し、(北口と北東口を除いて)すべての出入口が閉鎖になりました。

公園のほぼ中央部にあるキャニオンカントリーへやって来ました。ここはイエローストーンリバーが大渓谷を刻んでいるところで、長さ32kmにわたって、240〜300mの断崖絶壁が続いています。
ちなみに、イエローストーンリバーは、公園の南からイエローストーンレイクを経て大渓谷に入り、さらに北流して公園北口付近で園外へ出て、やがてミズリー川と合流し、最終的にはミシシッピー川となってメキシコ湾へ流れ込んでいます。
さらにちなみに、公園の南部には大陸分水嶺(冒頭の地図に水色の破線で表示)が走っていて、イエローストーンリバーはここを源流として北流していますが、反対側に降った雨は、前号でご覧いただいたスネークリバーとなってグランドティトン国立公園を南流し、やがてコロンビア川と合流して、オレゴン州とワシントン州の州境を画しながら太平洋へ注いでいます。

大渓谷の両岸は、グランドキャニオンと同様、ノース・リム(North Rim)=北縁、サウス・リム(South Rim)=南縁と呼ばれ、それぞれにいくつかの展望台が設けられていて、それらを車で巡ります。ちなみに、ノース・リムが左岸で、サウス・リムが右岸になります。詳しくは上(↑)の地図を参照願います。
まず、ノースリムのルックアウト・ポイント(Lookout Point)からスタートします。ここはノース・リムのMust Seeポイントで、ロウアー滝(Lower Fall)を最も良いアングルで見ることができます。
キャニオンにはアッパー滝(Upper Fall)とロウアー滝が2段に懸かっていて、前者は落差33m、後者は94mあり、とくにロウアー滝は、その落差(ナイアガラの約2倍)もさることながら、両側に迫る大渓谷がその高さをいっそう際立たせて絶景です。
ちなみに、大渓谷はほぼ東西に延びていて、滝方向へは午前中が順光になるので絶対にお薦めです。
ここはグランドビュー・ポイント(Grand View Point)というところで、ここから滝は見えませんが、イエローストーンリバーが刻んだ大渓谷を間近に見ることができます。
グランドキャニオンの断崖の高さは平均1,200mあり、イエローストーンはその約1/4ですから、渓谷の規模は較べるべくもありませんが、グランドキャニオンはあまりにも広大無辺で、私たちの理解をはるかに超えるため「実感が湧かない」のに対し、こちらは「ちょうどよい」(笑)スケールで、しかも手が届きそうな距離にあるため、グランドキャニオンとは別趣の迫力に圧倒されます。
ここはノースリムの周回道路の終端にあるインスピレーション・ポイント(Inspiration Point)です。滝は遠くにチラッとしか見えません(上の写真の画面奥)が、渓谷全体の様子がよく分かるポイントです。
岩壁のいたるところに例の「ロッジポール松」が元気に密生しています。松というのは険しい岩峰や海岸の断崖といった厳しい環境をことさらに(?)好むようなところがあって、この(↑)幼木もいまにも転げ落ちそうな崖っぷちに芽吹いています。このあたりでも、もう少し平らな場所はいくらでもあるのにと思うのですが…(笑)。

ノースリムを切り上げてサウスリムへ回ります。

ここはアッパー滝の展望台(Brink of Upper Falls)で、滝口を間近にのぞき込むことができます。
ここはサウスリムの周遊道路の終端にあるアーティスト・ポイント(Artist Point)という展望台で、ロウアー滝と黄色い岩壁が絶妙のアングルで眺められます。
両岸の岩肌は硫黄を含んだ熱水と蒸気により黄変していて、これが「イエローストーン」の名前の由来といわれています。
また、滝と反対側の下流方向の大渓谷も見逃すことができない絶景で、「アーティスト」と称されるのも納得できる景観です。
この展望台の良いところは、駐車場に至近で、しかも駐車場とほとんど高低差がないことで、車椅子でもこの場所まで来られるため人気のポイントです。

キャニオンカントリーに別れを告げて東口へ向かいます。このあたりは、キャニオンとイエローストーンレイクの間にあるヘイデンバレー(Heyden Balley)というところです。ここはイエローストーンレイクにつながる古いカルデラの名残で、草原がどこまでも拡がる美しい低地です。ちなみに、かつてのカルデラは、冒頭の地図にピンクの破線で囲った内側になります。
イエローストーンリバーは画面手前から向こうへ流れていて、その先で(上でご覧いただいた)大渓谷を刻んでいますが、このあたりでは穏やかな表情をみせながら、広闊な景観の中をゆったりと蛇行しています。
時間があれば、夕方までゆっくり写真を撮りながら、のんびりと草原を眺めていたい…、そんな気分になる実に平和で静かで心休まる場所でした。

まだまだ見どころ満載のイエローストーンに後ろ髪を引かれながら、そして私(ひそ)かに再訪を期しながら(笑)、東口から公園を後にしました。


…ということで、イエローストーン国立公園はおしまいです。
いかがでしたでしょうか?

次号は後編(完結編)として、ロッキーマウンテン国立公園を中心とした様子をご覧いただきます。
引き続きのお立ち寄りとご笑覧をお願いします。