(2023.3.19)
日本の古湯といえば道後温泉(愛媛県)や有馬温泉(兵庫県)が思い浮かびますが、栃木県の塩原温泉も「開湯1200年」の歴史を有する古湯です。 |
お庭には三笠宮殿下がご幼少の頃に当地で詠まれた歌碑がありました。 「しほばらの 鳥居戸山に出る月は 泣き虫山もおなじなるらん」とあります。 澄んだ子供心で詠んだ素朴な歌でありながら、しみじみとした情趣が胸に残る御作です。 案内の古老によると、「泣き虫山」というのは日光の(旧)田母沢御用邸の近くにある「鳴虫山」のことだそうで、かつての栃木県には那須(現用中)、塩原、日光に3つもの(!)御用邸があったことになります。 |
つづいて塩原温泉の中心部にある旅館「満寿家」で雛飾りを撮らせていただきました。 |
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昨秋、那須岳の紅葉を取材したあと、塩原の湯につかって山行の疲れを解したのが満寿家で、毎年この時期にたくさんの雛人形が展示されることを伺い、おりから塩原温泉郷全体としても「塩原雛めぐり」というイベントが開催されていることを知り、今回、取材のために再訪したものです。 | |
満寿家は創業が江戸時代という塩原温泉きっての老舗で、明治41年に架設した電話番号が「塩原一番」(現在は2001番)という一事が全てを物語っています。 | |
先祖代々の所蔵品に加えて、親戚縁者ゆかりの品や関係先から譲り受けたものなど4百数十体が、ロビーや会議室を埋め尽くして圧巻です。 | |
このほかにも、スペースの関係で展示しきれないものが百体余りあるというから驚きです。 | |
ご主人によれば、「展示作業に一週間近くかかり、とくにお人形に持たせる小道具をセットするのが大変」とのことで、片付け作業まで考えると気の遠くなるような話です。 | |
館内の設えが行き届いて実に細やかです。 |
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廊下を飾る数々の押し花アートは大女将の手になるものと聞きました。 |
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↑このあたりは大正時代の雛人形だそうです。↓ | |
私はほとんど門外漢ですが、時代や作者によって様々なバリエーションがあるように見受けられます。 | |
雅びな宮廷人が居並ぶ雛飾りにあってひときわ異彩を放つのがこちらの三人組です(笑)。 | |
あとで調べたところ、彼らは「仕丁」(しちょう)と呼ばれる雑用係で、お内裏さまの外出用具(傘や履物)や、宮廷の掃除道具(箒やちり取り)などを持っています。無報酬で徴用されてきたことから(?)「泣き」、「笑い」、「怒り」といった表情をしていて、「感性豊かな子に育ちますように」という願意も込められているようです。 | |
雛人形のなかで唯一の「庶民」のため最下段に飾るようですが、本格の雛飾りでしか見かけないことから、とても興味深く拝見しました。 |
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満寿家の隣りに「塩原もの語り館」という施設があって、こちらでも雛飾りが展示されているので立ち寄りました。 |
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ここにも例の「三人組」がちゃんと控えています(笑)。 | |
館内には塩原温泉の歴史を物語る資料展示室もあり、さすが1200年の古湯だけあって見応えがありました。 そのなかから、いくつか興味深かったものをご覧いただくと…、 |
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かつて西那須野駅〜塩原口駅間14.6kmを結んでいた「塩原電車」という軽便鉄道があったことや(↑)、その鉄道会社の株券(↓)などが展示されてます。 | |
文人墨客が多く訪れた塩原温泉ですが、大正から昭和にかけて活躍した版画家の川瀬巴水も塩原を愛したひとりで、氏の足跡と作品を紹介するコーナーが設けられています。 |
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満寿家で明治の終わりから(今も?)使われている浴衣です。 |
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階上のカフェレストランにも雛飾りが展示されていました。 | |
「段飾り」が多いなかにあって、こちらのは御所風の屋形を設えた「御殿飾り」になっています。 |
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最後まで長々ご覧いただき有難うございました。 |