(2015.7.26)

 

 

 

前々回の2015/6/14号でご覧いただいた「大山千枚田」でも書きましたが、農水省が1999(平成11)年に選定した「日本の棚田百選」(以下、「棚田百選」)というのがあって、全国117市町村(選定当時)、134地区の棚田が選ばれていますが、詳しく見てみると圧倒的に西日本(愛知県以西)が多く、全体の70%強(97地区)を占めています。

今回は、その西日本のうち、奈良県と岡山県の棚田を訪ねる機会に恵まれたので、その様子をご覧いただきます。

(専ら管理人の腕前の所為ですが)棚田の画像は色味も単調で絵柄も変化に乏しいため、きっと「もうお腹いっぱ〜い…」という方が多いことと思いますが、そこを何とか是非もう一回だけお付き合い下さい(笑)。

奈良県では一箇所だけ、明日香村の「稲渕(いなぶち)」という地区が、棚田百選に選ばれています。
ここは、有名な「石舞台古墳」から県道15号(桜井明日香吉野線)を1kmほど南下したあたりで、稲渕川(飛鳥川の上流)が刻んだ谷の両側に315枚の棚田が拡がっています。
谷が広く開けているため、面積(21.5ha)の割りには広闊な印象を受けますが、平均勾配は1/4(約14度)と結構な傾斜地にあります。
この辺りはちょうど田植えの真っ最中でした。

稲渕地区の棚田は、この時期だけでなく、ヒガンバナでも有名で、花季には大勢のカメラマンで混雑します。
明日香村には、このほかにも、県道155号(多武峯見瀬線)沿いの細川地区や上(かむら)地区にも、見事な棚田を見ることができます。
ここは冬野川(飛鳥川の上流)の源流部にあたり、狭い谷へ向かって両側から切れ込む山肌と、それにへばり付くように拓かれた棚田が、同じ明日香村とは思えない山深い趣を醸し出していて、なかなか見応えがありました。
こちらは、奈良盆地の東側を縁取る山あい、三重県境にもほど近い、宇陀市榛原(はいばら)地区の「玉立」というところにある棚田です。玉立と書いて「とうだち」と読みます。さすが「大和は国のまほろば…」というだけあって、難読地名ではどこにも引けを取りません(笑)。
榛原から名阪国道の針インター方向へ国道369号を少し北上した場所にあり、香酔川(こうずいがわ)に沿って開けた小さな谷に、棚田が折り重なるように拡がっています。

こちらは、先ほどの玉立の少し西側、桜井市の「吉隠」というところにある棚田です。ここも難読地名で、吉隠と書いて「よなばり」と読みますが、普通は絶対に読めません(笑)。
国道165号からほんの少し入った所で、牡丹で有名な長谷寺にも近い場所ですが、鬱蒼とした杉林に囲まれた狭い谷あいは、深山の趣すら感じられるところです。
奥に見えるのは近鉄大阪線で、電車が榛原(左手方向)へ向けて急勾配(33/1000)を上って行きます。

ここは、大和路の写真家、入江泰吉氏が数々の名作を残されている有名な場所ですが、自分の足で丹念に歩き回って、こうした場所を一つひとつ発見し開拓していかれた努力に感服し敬服します。
管理人などは、(恥ずかしながら)先人の足跡を後追いしているだけですが、実際にその現場に立ってみると、こうした場所を最初に見つけた人の感性と情熱と執念に、つくづく脱帽させられてしまいます。


ここからは岡山県の棚田の写真になります。

岡山県は新潟県に次いで日本第2位の棚田面積を誇り、棚田百選にも4地区が選ばれています。

何れも県央の久米郡にありますが、今回はそのうちの3地区を取材しました。
ここは、久米郡美咲町にある「大垪和西」という地区にある棚田です。大垪和も難読地名で、「おおはが」と読みます。
東西に広がる大きな谷を囲むように850枚の棚田がすり鉢状に拡がっていて、1周5.2kmの周回道路を巡りながら見学できるようになっています。
平均勾配は1/5(約11度)ながら、高低差が100m前後あるため、50段近い棚田を一望にすることができ、さすがに壮観です。
棚田がきれいに等高線を描いています。
面積が42.2haと規模が大きく、「岡山県を代表する棚田」だけあって、アクセスも比較的良好で、標識類も良く整備され、現地の案内資料や休憩設備なども充実した見学しやすい所です。
ここは大垪和西の東側、久米郡久米南町(くめなんちょう)にある「北庄」(きたしょう)という地区の棚田です。
大垪和西よりさらに山あいにあって、(資料によれば)面積は88ha、枚数は2,700枚(!)もあり、面積、枚数ともに棚田百選の中で最大の規模ですが、いくつもの小さな谷に分かれているため、全体を一望することはできません。
眼下に見える溜池は、神之渕池(かんのぶちいけ)といって、2010(平成22)年に農水省の「ため池百選」にも選ばれています。

ここは、北庄の南側、同じく久米南町にある「上籾」(かみもみ)という地区の棚田です。北庄より一段と山あいに位置し、平均勾配は1/7(約8度)ですが、上の方では30度を超すと思われる急傾斜の場所もあり、天気の良い日には瀬戸内海まで遠望できるそうです。
一枚あたりの面積は大垪和西や北庄より小さく、(資料によれば)面積は22haにもかかわらず、1,000枚(!)もの棚田があって、実際、数条しか植えられないような狭田も多く、山間地域における営農の厳しさが窺われます。

(アクセスのご案内)
1 (奈良県) 明日香地区は道が狭くて駐車スペースがないため、石舞台の駐車場(1回500円)に車を駐めて、域内の移動には循環バスの利用を強くお奨めします。
2 (岡山県) 大垪和西地区と北庄地区は比較的アクセスが良好ですが、上籾地区は進入径路によっては普通車でも通行が厳しい隘路区間があるので、カーナビだけに頼ることなく、現地情報を十分に収集されてください。


…ということで、2回にわたりました棚田巡りを終わります。長々ご覧いただき有り難うございました。