(2014.8.10)

 

     

  

今回は前号に引き続き、スイス旅行の「後編」として、スイスの南西部、ヴァリス(Wallis)州(下の地図の点線で囲んだ部分)の様子をご覧いただきます。
ヴァリス州はスイスの中でも3,000〜4,000級の名峰が集中している地域で、その中心といえばスイス屈指のアルペンリゾートであるツェルマット(Zermatt)です。

ツェルマットへは環境保護のためガソリン自動車の乗り入れが禁止されているので、私たちも手前のテーシュ(Tasch)というところでツアーバスから列車に乗り換えました。

ツェルマット駅へはマッターホルン・ゴッタルド鉄道(Matterhorn-Gotthard-Bahn、MGB)が通じていて、自動車からの乗り換え客のため、テーシュ〜ツェルマット間(一駅、所要約15分)にはシャトル便が運行されています。スーツケースを持っての乗り降りが便利なように、ホームと車内の段差がない低床タイプの車両になっています。

ツェルマット駅はMGBのターミナル駅で、前編でご覧いただいた「氷河特急」もここから発着して、レーティッシュ鉄道へ乗り入れて、東部のリゾート地のサンモリッツまで、約270kmをおよそ8時間で結んでいます。
ちなみに、この列車はツェルマットを8:02に出発して、サンモリッツへ16:00に到着します。
ツェルマットの街の中は、ガソリン車の代わりに、↓の写真のような電気自動車か馬車(!)のみです。
朝焼けのマッターホルンが見られるというビューポイントが近くにあって、管理人も早起きをして(日の出時刻=5:45)出かけてみましたが、あいにく厚い雲に隠れて何も見えませんでした。ちなみに、集まっている人のほとんどは日本からの方々です。

ツェルマットはマッターホルン観光の基地だけあって、登山鉄道やロープウェイが縦横に通じていて、いろんな観光ルートを楽しむことができますが、今回はゴルナーグラート鉄道(Gornergratbahn、GGB)という登山鉄道でマッターホルンを望む展望台へ上がりました。

GGBのターミナルは、MGBのツェルマット駅の向かいにあり、スーパーかコンビニのような「店構え」で、半地下式の薄暗いMGBのツェルマット駅とは好対照です。

GBBはツェルマットとゴルナーグラート(Gornergrat)展望台を結ぶ登山鉄道で、距離は9.3kmながら標高差が1,485mあるため、全線がアプト式のラックレールです。
ラックレールというのは、2本のレールの中央に歯型のレールを設置し、車軸に設置された歯車をこれに噛み合わせながら急勾配を登り下りする仕組みで、いろんな方式がありますが「アプト式」が最も有名で、ラックレールの代名詞のようになっています。

わが国でも、かつて信越線の横川〜軽井沢間の旧線に敷設されていたことで有名ですが、現在では大井川鐵道井川線の一部に存在するのみです。

前方の山腹に見える落石覆いの部分(写真の右上)を登っていきますが、最大勾配は※200‰(パーミル)あって、日本の感覚でいうと「ケーブルカー」並みの急登です。

※ 1km進んで200m上る勾配で、傾斜角にして約12度になります。わが国の鉄道と比較すると、旧信越線(横川〜軽井沢)が66.7‰、箱根登山鉄道が80‰、大井川鐵道井川線が90‰ですから、桁違いの急勾配ということになります。ちなみに、スイスの登山鉄道の最急勾配は、ピラトゥス登山鉄道(Pilatusbahn)の480‰(傾斜角=約26度!)で、これは世界記録でもあります。

途中から森林限界を超えて眺望が開けるため、車窓からもマッターホルンを間近に望むことができ、車内のあちらこちらで歓声が上がります。
麓のツェルマット駅から30分余りで終点ゴルナーグラート駅に到着します。この駅は標高3,089mあって、「地上」にある鉄道の駅ではヨーロッパで最高地点になります。富士山の八合目あたりまで電車が登ってくるのですからエライもんです(笑)。ちなみに、"Top of Europe"で有名なユングフラウヨッホ駅(Jungfraujoch)は標高3,454mですが、「地中」(トンネル内)に駅があります。
登山電車を降りて改札口を出たところがすぐに展望台になっていて、眼前に大パノラマがひろがっていますが、さらに少し歩いてゴルナーグラートの頂上(3,130m)まで登ります。空気が薄いためゆっくり歩かないと、たちまち息が切れます。

ここをクリックして大きなパノラマ写真をご覧下さい。
GBBのパンフレットには、ゴルナーグラートからの絶景について、
"
29 four-thousand metre peaks - from the Matterhorn through to the Monte Rosa - form a guard of honour."
"マッターホルンからモンテローザに至る29座の4,000m峰による栄誉礼"
(管理人仮訳)
と表現しています。

マッターホルンは独立峰のため雲が出やすく、この日もイタリア側から断続的に湧き上がる雲に隠れて、ついに山頂は姿を見せてくれませんでしたが、ブライトホルン(Breithorn 4,164m)からスイス最高峰のモンテ・ローザ(Monte Roza 4,634m)に至る峰々や、それぞれから押し出されてくる氷河が大河となって下ってゆく壮大なパノラマに息をのみます。
長大な氷河だけなら他所でも見ることができますが、いくつもの氷河がせめぎ合いながら、見事な曲線を描きつつ谷を下る様子は、自然の巧まざる造形美というほかなく、これほど表情豊かな氷河を間近に眺められるポイントはそうありません。

しかも、本来ならアルピニストだけの特権ともいうべき大パノラマの正面までこうして登山電車で来られるということ、さらにその登山電車が1898(明治31)年の開通ということ、さらに1日30便近くが「通年」運行されているということ、などなどスイス登山鉄道の奥の深さを垣間見る思いです。

山頂にはクルムホテル・ゴルナーグラートという山岳ホテルがあって、時間があれば展望テラスでマッターホルンを正面に眺めながらのティータイムも素敵です。

これはアルプス・アイベックス(Alpine Ibex)という主にアルプスの高地に生息する野生のヤギです。湾曲した大きな角が特徴ですが、こればまだ子供のようです。近くの崖に設置してある塩を舐めにきたところをガイドさんが上手く見つけてくれました。

ゴルナーグラートからは、マッターホルンに連なる峰々を南側に望む格好になるので、光線の具合からも、お天気の点からも、午前中の早い時間がお薦めです。ちなみに、稜線の向こう側(南側)はイタリアです。

ゴルナーグラート駅から一駅、ローテンボーデン駅(Rohtenboden)まで下ります。登山電車にしては珍しい複線区間があって、急勾配の途中でのすれ違いを体験することができます。

ローテンボーデン駅(2,819m)で下車して次のリッフェルベルク駅(Riffelberg 2,582m)まで、一駅相当の区間ですが2.7kmほどハイキングをしました。

ここはリッフェル湖(Riffelsee)という湖(というより池?)で、湖面に映る「逆さマッターホルン」が有名なところですが、この日は中腹から上が雲に隠れ、さらに湖にもさざ波が立ってご覧のような状況でした。
ガイドさんが高山植物のことを熱心に説明してくれましたが、撮影に熱中していてほとんど耳に入っていませんでした。

さらに少し下ったところにあるUnter Riffelsee(「下リッフェル湖」とでも訳すのでしょうか)です。こちらは風の影響がやや少ないため、少しだけ湖面に映り込んでいました。

このあたりは、ハイキングコースがたくさんあって、道標などもしっかりしているため、よほどの荒天でないかぎりは、管理人ような初心者でも気軽に山歩きを楽しめそうです。

北西ヴァリス・アルプスの山々が遠望できます。映画「The Sound of Music」に出てくるような景色です。(ただし、ロケ地はここではありません)
いたるところで牛や羊の放牧が行われていて、首にぶら下げたベルがなんとも長閑な音色を奏でています。
リッフェルベルク駅が眼下に見えてくるとハイキングコースの終点です。1.5時間ほどの下りだけの行程なので、まだまだ歩けますが、今回はここからツェルマットまで再び登山電車で下りました。

さらに一駅下ったリッフェルアルプ駅(Riffelalp)です。近くにリッフェルアルプ・リゾートという五つ星のホテルがあって、駅からホテルまでアンティークなトラム(黄色の点線で囲んだところ)が出ています。

ツェルマットの街が眼下に見えてくると間もなく終点です。


これで、後編はおしまいです。
えっ、モンブラン(
Mont-Blanc)やユングフラウはどうしたの?
とお思いの諸兄姉、お尋ねはごもっともです。
しかし大変残念ながら、後半は降り籠められて、まともに撮れませんでした(悔)。

ガイドブックによれば、スイスの6〜8月は一年で最もお天気が安定している時季ということで、勇んで出かけたのですが、今年は欧州も異常気象とかで、ずっと不安定なお天気が続いていて、高所では横殴りの吹雪に見舞われる始末でした。
そんななか、頑張って「強行撮影」した何枚かをお目にかけてご容赦願うことにします。


エギーユ・デュ・ミディ(Aiguille du Midi 3,842m)へ上りました。シャモニー(Chamonix)からロープウェイを乗り継いで20分ほどのところにある展望台で、モンブランを間近に眺めるビューポイントの「はず」ですが、ロープウェイのゴンドラも凍りつく悪天で、さらにクライン・マッターホルン(Klein Matterhorn 3.883m)では落雷があって、復旧まで山頂駅で小一時間足止めを食らうなど散々でした。

ユングフラウも荒天で、登山鉄道で山頂のユングフラウヨッホ駅まで上がり、せっかくなので展望テラスへも出てみましたが、ご覧のような有様でした。おまけに、帰途に予定されていたアイガーグレッチャー駅(Eigergletscher)からクライネ・シャイデック駅(Kleine Scheidegg)までのハイキングも中止になり、ツアーメンバー一同、その不運を呪ったものです。
中止になったハイキングの代わりということで、クライネ・シャイデック駅付近の散策が催されましたが、管理人はもっぱら駅の構内で登山電車を撮影して憂さを晴らしました(笑)。↑の写真はユングフラウヨッホから下りてきたユングフラウ鉄道(Jungfrau BahnJB)です。

↑の写真は、ここで乗り換えてラウターブルンネン駅(Lauterbrunnen)方面へ下るヴェンゲンアルプ鉄道(Wengern Alp BahnWAB)です。

ラウターブルンネンへ下る途中にあるヴェンゲン(Wengen)という町です。画面左手にチラッと線路が見える辺りが登山電車の駅です。ヴェンゲンは氷河が削ったU字谷の崖の上にある閑静なリゾート地で、電車は谷底のラウターブルンネンへ向かって急勾配を下っていきます。

ラウターブルンネンの町はU字谷の谷底にあり、町の両側に迫る絶壁からは72本(!)もの滝が流れ落ちていますが、最も壮観なのが駅のすぐ裏手にあるシュタウプバッハの滝(Staubbachfall)で、落差が305mあります。

最後に首都ベルン(Bern)へ立ち寄りました。スイスを巡るツアーでは、とかく「おまけのベルン」、「帰りがけの駄賃」といった日程になっているようですが、大きく蛇行した川へ向けて張り出すように広がる旧市街は、12世紀からの古い建物をかすめてトラムが行き交う情緒たっぷりの街並みで、1983(昭和58)年に世界文化遺産に登録されています。

エーデルワイス(Edelweiss)


長々とご覧いただき有り難うございました。


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