(2012.10.21)


   

 



 

  

明治の文筆家、大町桂月は終生旅を友とし、その紀行文においても名声を博しました。とくに、東北から北海道にかけては多くの足跡を残し、その魅力を広く世に伝え残しました。

大町桂月は、北海道の大雪山について、「富士山に登って、山岳の高さを語れ。大雪山に登って、山岳の大(おおい)さを語れ。」といっています。

今回はその大雪山に日本で一番早い紅葉を求めて行ってきましたのでご覧いただきます。
羽田を発つときはあいにくの雨でしたが…

津軽海峡を越えた辺りから予報通り晴天になってきました。

美瑛の丘を眼下に見ながら、南側から旭川空港へ進入します。

それでは、本編へ入る前に、先ず例によって全体をざっと俯瞰しておくことにします。

大雪山は北海道のほぼ中央に位置し、1934(昭和9)年に大雪山国立公園として登録されています。冒頭の大町桂月の言葉にもあるように、その面積は2,267.64平方キロにおよび、琵琶湖の約3.4倍、ほぼ神奈川県に匹敵する広さで、わが国最大の国立公園です。

「大雪山」という名のピークはなく、主峰旭岳(2,291m)をはじめとする峰々からなる山群の総称で、旭岳は北海道の最高峰でもあります。 山々の標高は2,000m前後ですが、緯度が高いため、本州の3,000m級に匹敵します。ちなみに、大雪山の森林限界は約1,400メートルで、本州中部のそれが約2,500mであることからも、その高山環境が納得できます。

大雪山へのアプローチは幾つかありますが、今回はそのうち南東の旭岳温泉からロープウェイを経て旭岳へ向かうコースと、東の大雪湖畔から銀泉台を経て赤岳へ向かうコースを探訪しました。

このほか、紅葉シーズンに人気があるコースとしては、北の層雲峡からロープウェイを経て黒岳へ向かうコースや、大雪湖畔から大雪高原温泉を経て高原沼を巡るコースなどがあります。

まず、旭岳温泉からロープウェイで姿見平というところまで上ります。
ちなみに、旭岳ロープウェイは、わが国で唯一、森林限界を抜けて高山帯まで乗り入れているロープウェイとのことです。上(↑)の写真はロープウェイの車窓から撮ったものですが、ちょうど陽のあたっている部分と陰の部分の境目辺りが森林限界になります。

ここは旭岳への登山口ですが、ロープウェイの駅を起点に一周1時間ほどの遊歩道が整備されていて、ご覧の通り特別な装備がなくても、気軽に散策できます。

こうした「池」が随所にあって、景観のアクセントになっています。それぞれに名前がついていますが、いずれもかつての噴火口の跡に水が溜まってできたものです。
この辺りは標高が1,600mあり、既に森林限界を超えているため、紅葉といってもモミジやカエデのような高木はなく、ナナカマドや草紅葉といった低木類が、ハイマツの緑をバックに鮮やかなコントラストを見せます。
長く裾野を引いた格調高い山容は、大雪山系の盟主として、北海道の屋根に相応しい風格を湛えています。

ここは姿見平で一番大きな姿見の池で、ここから旭岳への登山道になります。
ここは旭岳のほぼ五合目にあたり、ここから頂上まで2時間半の上りですが、今回は雲行きが怪しくなってきたので、途中で引き返しました。
大雪山一帯はアイヌ語で「カムイミンタラ(神々の遊ぶ庭)」と呼ばれます。大自然に対する畏敬の念を大切にすることは、現代にも繋がるものがあると思います。

ちなみに、カムイとはヒグマの意味もあり、大雪山に入山することは、彼らが遊ぶ庭にお邪魔することでもあります(汗)。

ここからは、少し「寄り道」です。

旭岳ロープウェイを下りて、忠別川の源流部にある羽衣の滝へ回りました。

ここは、「大台ヶ原」(2012-9-16号)でもご紹介した、落差ランキング第2位(270m)の滝で、是非いちど見てみたいと思っていました。

実際には、ご覧の通り、滝口が岩陰に隠れて見えないため、その全貌を目の当たりにすることができず、いまひとつスケール感に欠けるのが残念です。







本編に戻って、ここからは銀泉台周辺の紅葉です。先ほどの旭岳/姿見平の位置を時計の9時とすれば、銀泉台は3時の位置にあたります。ちなみに、有名な層雲峡は12時の位置になります。
銀泉台は大雪湖畔から林道を約15キロ上った行き止まりにあります。この「林道」はれっきとした道道(1162号)で、かつては大雪山を横断して旭川に至る道道212号、別名「大雪山観光道路」、として計画された路線ですが、環境保護の観点から未開通部分の建設が中止され、途中の銀泉台までの区間が、林道同然の離合もままならないダート道として残されました。
もう一度、冒頭の地図(↑)をご覧ください。道道1160号と道道1162号がどちらも行き止まりになっていますが、これが(元)大雪観光道路の未成区間です。そもそも、国立公園のど真ん中に道路を通そうという計画自体、現在の常識から考えれば腰を抜かすような話ですが、自然破壊とか環境保護といった意識が希薄だった「夜明け前」の時代に、これを中止させた見識と行動力には脱帽します。

同様の事例は尾瀬(右の地図ご参照)にもあって、群馬県の片品村大清水から、尾瀬を突っ切って(!)、福島県の檜枝岐村沼山峠へ至る区間が国道401号として指定されていますが、1971(昭和46)年に工事が中止された結果、大清水と沼山峠でそれぞれ行き止まりになって、今ではどちらも尾瀬(沼)への入山拠点として機能しています。
本編へ戻ります。今では銀泉台で行き止まりの道道1162号ですが、それでも紅葉シーズンにはマイカーが押しかけるため、自然保護の観点から大雪湖畔より先は乗り入れが禁止され、シャトルバスを利用することになります。自然保護はともかく、あのような険路からマイカーを閉め出すことは、渋滞や事故を防ぐことでお互いのためにもなるし、シャトルバスの料金も良心的(往復800円)です。
銀泉台から直ぐに赤岳への登山道になります。先にご覧いただいた旭岳/姿見平のように、散策路を周回するのではなく、いきなり登山道を上がるので、それなりの足元を拵える必要があります。
ところが、この日はあいにくのお天気で、ご覧のように(↑)ほとんど視界が開けず、しばらく現地で天候の回復を待ちましたが、逆にどんどん悪化する一方なので、諦めていったん撤収して山を下りることにしました。

ここからは、そのリベンジをかけて翌々日に再訪(!)した写真です。

シャトルバスに乗り込むまでは晴天だったのが、銀泉台に近づくにつれて雲が懸かって気を揉みましたが、ときどきは日が射すまずまずのコンディションとなりました。

画面中央が道道1162号の終点、銀泉台(標高1,490m)です。

前々日とほぼ同じ場所から「撮り直した」のが上(↑)の写真です。

冬眠を前に冬仕度を急ぐエゾシマリスです。頬張ったエサでほっぺがパンパンです。

これはエゾナキウサギです。こちらにお尻を向けて顔を上に向けています。かつて大陸と陸続きだった時代に渡ってきた「氷河期の生き残り」で、冬眠はしませんが岩場を忙しく動き回って、草の葉や茎を岩の間に溜め込み、冬の保存食づくりに余念がありません。

このほか、カメラに収めることはできませんでしたが、エゾシカやキタキツネも見かけました。

これはシラタマノキといって、本州北部から北海道、千島、樺太などの高山帯に分布する低木で、文字通り、白色の小さな実をつけます。

このように、大雪山は貴重な動植物の宝庫でもあることから、大雪山自体が1977(昭和52)年に特別天然記念物の指定を受けています。

このガレ場を上りきったところが通称「駒草平」といって、高山植物の女王といわれるコマクサ(花季は7〜8月)の群落があります。

地元の詳しい人によれば、今年は当地も残暑が厳し過ぎたため、紅葉の色づきがイマイチで、本当は「こんなもんではない!」とのことでした。
たしかに、雑誌やネットで見かける紅葉に較べると、少し残念な気がしないでもありませんが、管理人のように初めてここに立った者にとっては、北海道ならではの雄大なスケールと、山肌を彩る紅葉を目の当たりにして、十分満足のできる景観でした。

それにしても北海道はやはり広いです。大雪山の周りをグルグルしていただけですが580q走りました(笑)。