(2018.9.16)

 

  

さしもの猛暑も9月の声を聞くとともに漸く鳴りを潜め、朝夕は微かに秋の兆しが感じられるようになってきました。

そこで今回は陽が落ちた頃合いを見計らって、ライトアップされた東京駅丸の内駅舎とその周辺を取材してきたのでご覧いただくことにします。

東京駅の丸の内駅舎は、明治を代表する建築家、辰野金吾の設計になる赤レンガ造りの建物で、1914(大正3)年に竣工、1923(大正12)年の関東大震災にも耐えましたが、1945(昭和20)年5月の東京大空襲で被災し、長らく戦災復興工事のままの姿をとどめてきました。
その後、2003(平成15)年には国の重要文化財に指定され、2007(平成19)年からはJR東日本により復元・保存工事が行われ、戦災で喪失した優美なドーム屋根を始め、外壁の細かい意匠にいたるまで、材料と技巧を惜しみなく注ぎ込んだ修復作業の結果、2012(平成24)年10月に工事が竣工して創建当時の壮麗な姿が甦りました。
総工費約500億円については、駅舎(低層3階建て)部分の未利用容積率(いわゆる空中権)を、新丸ビルやJPタワーといった近隣の高層ビル6棟へ売却することで調達しています。
これも都心の一等地ならではの離れ業で、車両の更新すらままならないJR北海道などからみれば、よだれの出るような話でしょう。拙宅も高層ビルにする予定はないので、誰か空中権を買ってくれないものかと思いますが…(笑)。
丸の内側の駅前大広場も一新されました。東京駅は長い間いつもどこかが工事中で、「日本のサグラダ・ファミリア」と揶揄されることもありましたが、昨年12月の駅前大広場のリニューアル完成で、ようやく大きな工事が終了しました。ちなみに、現在は横浜駅がサグラダ・ファミリア状態のようですが…。
広場の中央は皇居へ続く「行幸通り」との一体感を重視した白い御影石で舗装され、その左右には芝生やケヤキを配した散策、休憩スペースが設けられ、さらにその外側は都バスやタクシーのための交通広場になっていて、機能的にもデザイン的にもスッキリとレイアウトされています。
行幸通りというのは、東京駅丸の内中央口にある貴賓玄関から、丸ビルと新丸ビルの間を真っ直ぐ皇居方面へ向かっている広い道路で、皇室行事や新任の駐日大使が信任状捧呈のため馬車で皇居へ参内する際に使われる特別な通りです。ちなみに、馬車列の運行予定は宮内庁のHPで知ることができます。


駅前広場から行幸通りへの出口はどうなっているのかと見てみると、柵は取り外せるようになっていて、縁石もその部分は切り取られています。
行幸通りの両側には見事なイチョウ並木があって、晩秋には黄金色に輝く黄葉がビル街に調和して、いかにも「東京のイチョウ」といった趣があり、管理人のお気に入りスポットです。(2016.11.30撮影)


手前の建物が新丸ビル、その奥のレンガ色の建物が東京海上日動ビル本館、さらにその奥が皇居方向になります。

この日は18時過ぎに陽が沈みました。

駅舎の建物は、毎日、日没から21時までライトアップされます。
丸の内北口です。
都市のシンボルといえる建物が少ない我が国にあって貴重な建造物といえます。
丸の内南口です。
ここからの写真は丸ビルの5階にある展望デッキから撮ったものです。
新丸ビルの7階にあるテラスからも撮れますが、生憎この日は台風の余波で風が強かったため閉鎖されていました。
八重洲の高層ビル群をバックに、大正時代の赤レンガ駅舎が何の違和感もなく、むしろ歴史的建造物としての風格を漂わせつつ、周囲の景観に上手く溶け込んでいて、現代の東京の表玄関に相応しい素晴らしい眺めです。


 
ちなみに、上の写真(↑)は2004(平成16)年の暮れに撮った修復「前」の丸の内駅舎です。手前のイルミネーション(未点灯)は当時開催されていた「東京ミレナリオ」のものです。


画面右手の建物は東京中央郵便局とJPタワーです。JPタワーは旧東京中央郵便局跡地に建設された地上38階建ての高層ビルで、建築にあたっては旧庁舎の保存を巡って故鳩山邦夫総務大臣(当時)と日本郵政の西川社長(当時)の間で悶着があり、その結果、若干の設計変更が行われたと記憶しています。
そのJPタワーの6階部分に「KITTEガーデン」という屋上庭園があって、東京駅丸の内南口を正面に、八重洲側と丸の内側の夜景を一望することができます。
さらに屋上庭園の東端までいけば、東京駅に出入りする新幹線や電車を眼下に眺めることができ、家族連れや鉄道ファンにもお奨めのスポットです。
このように撮影場所には事欠かない東京駅ですが、夜景撮影になくてはならない三脚の使用がどこも禁止されていて、手持ちで撮影しなければならないのが辛いところです。
「三脚は空いている時だけにして混雑時は遠慮する」という当たり前の対応ができない人が増えた結果、「三脚は一律禁止」となり、(今回のように)ガラガラでも使えないという残念な状況になってしまいました。自業自得と観念するほかないようです。
いま東京駅を取り巻く超高層ビルは約10棟あり、そのほとんどがこの10年ほどの間に建築されたものばかりで、管理人のような田舎者は一帯の変貌に目を瞠るばかりです。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックを目指して東京は更に進化を遂げようとしていますが、きらびやかなオフィスビルに囲まれて静かに佇む赤レンガの駅舎は、まさしく東京の歴史と未来を象徴する偉観といえましょう。