(2018.6.3)

 

  

前号、前々号では桜前線を追いかけて宮城県まで足を伸ばしましたが、今回は残雪の北アルプスを望む新緑の白馬村を取材してきたので、その様子をご覧いただきます。

白馬村へ向かう前に戸隠に立ち寄りました。先ずは鏡池です。

鏡池は戸隠神社の奥社の近くにある農業用ため池=人工の池です。

灌漑用水の確保だけでなく、貯水することで温められた水を利用して冷害を抑制する目的もあるようです。

当地は海抜1,200mの高冷地にありますが、鏡池のおかげで安定した水稲栽培が可能になったとありました。

それはともかく、戸隠連峰の荒々しい山肌を背景に、池畔の木々が水面を美しく彩り、初夏の新緑から秋の紅葉を中心に、一年を通じて訪れる人が絶えません。

また池の周囲は野鳥の宝庫で、この日もバードウオッチングの人をたくさん見かけました。

鏡池を切り上げて戸隠神社の奥社へ向かいます。鏡池から奥社までは林間の散策路を30分ほどの距離です。

途中には稲荷社もあります。

また、ミズバショウの群落もいたるところで見かけます。ミズバショウは咲きだしの頃はとても可憐な花ですが、花季が終わると肥大化した葉がグングン伸びてきて、若い頃とは似ても似つかない形相になって幻滅します()

戸隠神社は戸隠山の山麓一帯が神域になっていて、そこに五つの社(奥社、中社、宝光社、九頭龍社、火之御子社)が鎮座しています。

神社の縁起によれば創建は孝元天皇5年(紀元前210年)とありますから二千年以上の歴史を刻む古社ということになります。

祭神は天の岩戸開きの神事に所縁の神々で、古くから修験道の道場として、あるいは比叡山や高野山と並ぶ霊場として、篤い信仰を集めてきたところです。

なかでも、奥社、九頭龍社へ続く参道の両側には500mにわたって樹齢400年を超す約300本の見事な杉並木が続いて圧巻です。
いかにも「神域へ誘う道」といった荘厳な佇まいです。
この杉並木を含む「戸隠神社奥社社叢」は長野県の天然記念物に指定されています。

戸隠神社の五社のうち三社は門前まで車で行けますが、この奥社と九頭龍社は歩いて参拝する必要があり、かつ最後の方はちょっとした登りにもなっているので、ご年配の方は少し大変かも知れません。

戸隠神社の参拝を済ませて、奥社近くのお店で名物の戸隠蕎麦をいただきました。

信州は蕎麦どころのため、行く先々で美味しい蕎麦に出会えます。

希に、蕎麦は申し分ないのにつゆ(汁)が残念ということがありますが、こちらのお店は蕎麦もつゆも絶品でした。

余談ですが、お土産に買って帰って自宅で調理しても、なぜか上手くいかないことが多いです。

きっと茹で方が下手だ(あるいは水も違う?)からと思いますが、お店のようにみずみずしく仕上がりません。

戸隠から白馬へは直線距離で20km程度ですが、あいだに戸隠連峰と小谷(おたり)山地が立ちはだかり、大型車が通れるまともな道路がないため、観光バスなどはいったん長野まで戻ってから、オリンピック道路(国道19号+県道31号)で白馬へ向かいますが、今回は鬼無里(きなさ)経由の最短ルートを行くことにしました。

前半の鬼無里までの区間は県道(36号)ながらまずまずで、戸隠連峰を越える大望峠では雄大な山並みを一望できますが、後半の小谷山地を越える区間は国道(406号)とも思えないヘロヘロ道路が延々と続きます。

2日目は朝から雲ひとつない晴天に恵まれたので、夜明けの曙光に輝く北アルプスの残雪を撮るべく早起きしました。

白馬村は、北アルプスの後立山連峰と小谷山地に挟まれた、南北に細長い盆地になっていて、その中央部を姫川が北流し糸魚川で日本海に注いでいます。
西側の北アルプスの山麓は、早くからスキーのメッカとして開発が進み、長野オリンピックのスキー会場になったほか、近年では海外からの観光客も急増して、我が国を代表するウインターリゾートとして賑わっています。
一方、東側の小谷山地の山麓は、里山の風景が今なお残る山村が点在していて、この時期は水が張られた棚田に残雪の北アルプスが映えて、みずみずしい初夏の原風景を楽しむことができます。

棚田の撮影は「水が張られて田植え前」のタイミングがベストと思います。

きれいに除草された畦(あぜ)が棚田をクッキリと縁取り、水が張られた田んぼが水鏡となって周囲の景観を映しますが、稲が成長してくると水面が見えなくなり、畦の雑草も伸びてきて棚田の形がおぼろげになってきます。
…と、カメラマンの都合で勝手なことを言っていますが(笑)、遠隔地の田んぼの様子はネット情報を駆使しても分からないことが多く、最後は(アナログに)地元の観光協会へ電話照会ということになりますが、
最近では(管理人を含めて)たくさんのカメラマンが押しかけるためマナーの低下が問題になっていて、地元の農家との関係が悪化している場所が少なくありません。
とくに田んぼの畦が踏み荒らされることに農家は神経質になっています。管理人は農業の経験はありませんが、田舎で育ったため少しは分かるのですが、「畦」というのは田んぼのなかでも非常にデリケートなパーツのため、農家はこれの維持管理に大変気を遣っています。
(管理人ごときがエラそうに言うことでもありませんが)やはり決められた場所や道路からの撮影に止め、地元と良好な関係を維持して、いつまでも気持ちよく撮影したいものです。ちなみに、この日のカメラマンは、管理人を含めて(笑)、皆さんお行儀よく撮っておられました。
このあたりでは、いたるところで山フジ(野フジ)を見かけました。

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白馬三山(白馬鑓ヶ岳、杓子岳、白馬岳)を正面に望みます。
ちなみに、白馬岳(2,932m)は後立山連峰の最高峰です。

白馬では雪解けの時期に山腹の岩肌と残雪が描く模様をいろんなものに見立てて「雪形」と呼んでいます。雪形は季節の移ろいに従ってどんどん姿かたちを変えていきますが、その時々の形を農作業の時期と関連付けて、「農事暦」として利用してきました。

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なかでも有名なのは白馬岳と小蓮華山の鞍部に現れる馬のような雪形で、「代掻き(しろかき)馬」と呼ばれています。「代掻き」とは田植え前に田んぼを平らにならす作業のことで、この雪形が現れると代掻きの時期ということになります。左向きで後ろ足を踏ん張っているように見えますが、管理人などはあれがそうだと教えられて初めて気がつくレベルです。 
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また、「代掻き馬」が転じて「しろうま」から「白馬」になったと言われていて、北アルプスに数ある雪形のなかでも一番有名です。ちなみに、白馬岳は「しろうま」、白馬村は「はくば」と読みます。

これは有名な一本桜です。北アルプスを背景にすっくと立った姿は、葉桜となった今も大いなる存在感があります。

JR大糸線が近くを走っています。
ここは人気の撮り鉄ポイントで、平日にもかかわらず20人近いファンがカメラを並べていましたが、皆さん譲り合ってとてもイイ感じでした。

また、真ん前の田んぼではちょうど田植えの最中でしたが、列車が来る頃にはわざわざ田植機を脇に寄せて作業を中断してくださり、和やかな雰囲気のなかで楽しく撮影できました。

農家の方には忙しいところお邪魔しました。m(_ _)m

列車は下り特急「あずさ3号」南小谷行きです。

ここは「栂池パノラマ橋」から見下ろした棚田の様子です。

白馬村から栂池(つがいけ)方面へ向かう途中にある橋で、深い渓谷をまたぐため約50mの高さがあります。

ここは「大出公園」というところで、残雪の北アルプス、姫川、吊り橋、茅葺きの民家といった「小道具」が全部揃っているスタジオのような場所のため(笑)、桜の時期には大勢のカメラマンやスケッチをする人で賑わいます。
背後の山腹にある喫茶店の前庭からは、白馬三山をバックに大出公園を俯瞰できます。
ここは「白馬大橋」から望む北アルプスの様子です。
白馬三山を一望する絶景ポイントで、国交省の「日本の道100選」にも選定されています。
下を流れているのは松川で、この先で姫川に合流しています。

最後に「白馬ジャンプ競技場」へ回りました。
今回の撮影テーマの「残雪の北アルプスと新緑の白馬村」からは全く外れますが(笑)、以前から気になる存在だったので立ち寄ってみました。
長野オリンピックでジャンプ競技の会場になったところですが、一般客も見学することができて、リフトとエレベーターでスタート地点へ登ることができます。
こちら(↑)がラージヒルで、こちら(↓)がノーマルヒルです。
やはり、なかなかの高度感です。
1998(平成10)年の長野オリンピックでは、ノーマルヒルで船木和喜が[銀メダル]、ラージヒルの個人で船木が[金メダル]、原田雅彦が[銅メダル]、さらにラージヒルの団体でも日本が[金メダル]を獲得して大いに沸きました。原田選手が「ふなき〜」と絶叫したのがここです。早いものであれから今年でちょうど20年(!)、今では原田氏も50歳になり、全日本スキー連盟の常務理事に就任されています。



…ということで、最後は例によって脱線してしまいましたが(笑)、
グリーンシーズン真っ只中の北信濃を満喫した二日間でした。
長々ご覧いただき有り難うございました。