(2013.10.27)

 

 

今年も日本一早い紅葉を求めて、9/30から10/3にかけて、北海道の大雪山へ行って参りました。

お目当ては、大雪山の東斜面にある湖沼群「大雪高原沼」とその周囲を埋めつくす紅葉です。

先ず例によって、全体の位置関係を俯瞰しておきます。大雪山は北海道のほぼ中央に位置し、その面積は約2,300平方キロにおよび、琵琶湖の約3.4倍、ほぼ神奈川県に匹敵する広さで、わが国最大の国立公園です。
先ずは羽田から旭川へ向かいます。

大雪山の紅葉の名所は幾つもありますが、管理人の知る所としては、見頃の早い順に、裾合平>姿見平≧銀泉台≧黒岳(五合目)>高原沼>層雲峡といったところです。年によってバラツキがありますが、秋分の日前後に見頃を迎える裾合平を皮切りに、1ヶ月ほどかけて麓へ下ってくるので、どこかに狙いを絞らないと、すべてのポイントを1回の撮影行で撮り切ることはできません。

今回の大雪高原沼は、大雪山の南東部に拡がる高根ヶ原という平原が、太古に地滑りしてできた陥没地帯に、大小30以上の沼が点在するもので、右の写真や下の地図でも分かるように、高根ヶ原の東面がスパッと切り落ちて、比高200mほどの断崖になっています。
しつこくて申し訳ないですが、もう一度全体の位置関係をご覧下さい。これは、「層雲峡ビジターセンター」にあるジオラマを撮ったものに、管理人が地名と道路を追記したもので、一般に「裏大雪」と呼ばれているエリアを東側上空から俯瞰した格好になります。
大雪高原沼へは、国道273号から分岐する高原温泉線という町道(実質は林道?)が、沼巡りの玄関口ともいうべき「大雪高原温泉」まで通じていますが、紅葉の時期にはマイカー規制が実施されるため、麓の大雪湖畔(ダム湖)の駐車場(↑)に車を置いてシャトルバス(所要25分)で入ります。往きは頑張って早朝のバスに乗ったのでこのように(↓)比較的空いていましたが、帰りは立ち席が出る超満員でした。
大雪高原沼の一帯はヒグマの生息地でもあり、保護観察地域に指定されています。このため、大雪高原温泉に環境省の「ヒグマ情報センター」というのがあって、ここでヒグマの出没情報や注意事項についてのレクチャー(所要約10分)を受けてからでないと沼巡りコースへの立ち入りができません。

また、コースへの立ち入りには入山届も必要で、入山時間も7時から13時までで、15時までには下山するよう求められるほか、ヒグマの出没中には立ち入りエリアが制限され、その場合は途中で折り返すことになり、一周することができません。

幸いこの日は一周することができ、ヒグマの気配もまったく感じませんでしたが、監視員(レンジャー)の方々がコースの要所要所で、安全確認のための監視と案内にあたっておられます。
大雪高原温泉からみた高根ヶ原の雪渓です。その雪形から「コウモリの雪渓」と呼ばれているそうです。

ヒグマ情報センターでのレクチャーも済ませていよいよ出発します。
こんな楽しい黄葉のトンネルを進みます♪〜。

最初はあまり眺望がきかない樹林帯を通りますが、それでも周囲は色とりどりの木々に囲まれて、序盤からテンションが上がりっぱなしです。
画面中央奥に「コウモリの雪渓」が望めます。

ナナカマドの赤、ダケカンバの黄、クマザサの緑、真っ青な空、まるでカラーフィルムのサンプル用画像のような景観です(笑)。
空の青とダケカンバの黄色は、補色といって反対色なのでとてもよく映えます。

ヤンベタップ川を渉って沼巡りコースへの登りにかかります。

こういう看板もあって、熊避けの鈴や笛は必携です。

沼巡りコースを時計回りに一周します。ここは最初に現れる沼で、その形が相撲の土俵に似ていることから「土俵沼」という名前がついています。
「土俵沼」の入口から、いま登ってきた方角を振り返ったところです。少し雲が懸かっていますが、画面中央奥に見えるのが緑岳(2,019m)です。

ここは「滝見沼」というところです。大雪高原沼の代名詞ともいえるアングルで、(当たり前ですが)雑誌等で見たその通りの風景が眼前に展開して、年甲斐もなく感動してしまいました。こういう時は、風景を撮っているというより、風景に撮らされているという状態で、帰ってから整理してみると、知らないうちに同じアングルを何枚も撮っていました(恥)。
ここも沼巡りの定番スポットで「緑沼」といいます。ツアーの方々は時間の制約もあって、ほとんどのグループはここで引き返されます。ここまででも十分見応えがありますが、この先に更に雄大な景観が待っていました…。
沼の中に見える浮島のようなものは、高層湿原でよく見かける「池塘(ちとう)」です。

緑沼を後にして、小さな沢に沿って更に登ります。
「鴨沼」(↑)の脇の草むらでキタキツネ(↓)を見つけました。草をかき分けて何かを捕食中でしたが、一頻り食べ終えると極く近くまで来てポーズを決めてくれました。観光地のキタキツネは餌をねだりに来たりして厄介ですが、ここはハイカーのマナーがいいとみえて、人に媚びない野生の面構えをしていました。それにしても、クマではなくキツネでよかったです(汗)。
ここは「えぞ沼」というところで、バックに遮るものがないため、さながら天空の湖の趣があります。下の写真(↓)は少し登ったところからえぞ沼を見下ろしたカットです。
「式部沼」を見下ろす高台へやってきました。正面に連なるのは高根ヶ原に続く断崖です。目の前に拡がる雄大な景観に何ともいえない圧迫感すら感じますが、いま冷静に写真を見直してみると、現場の臨場感が全然伝わってきません(悔)。
ここは撮影ポイントがせまいので、うっかり前に出ると写り込んでしまうため、譲り合って順番に撮りますが、皆さんとてもマナーがよくて、この点でも久しぶりに気持ちよく撮影することができました。
大雪高原沼というと、前掲の滝見沼や緑沼の写真をよく見かけますが、管理人はこの式部沼が白眉だと思いました。画面左手に写っている沼沿いの小径を辿って、次の「高原沼」へ向かいます。少し人が入るだけで風景の大きさがハッキリします。

ここは「高原沼」といって、沼巡りコースのほぼ最高地点(約1,500m)で、出発地点の大雪高原温泉から約250m登ってきたことになります。また、ここが沼巡り一周コースのほぼ中間地点になり、前記の通り15時までに下山しなければならないため、ここを13時までに発つ必要があります。手前の白い部分は雪渓です。

沼巡りコースはヒグマの生息地のため、飲食できる場所が決められていて、緑沼、大学沼と、ここ高原沼のみで、残飯はもちろんジュース類の飲み残し等も排出することが禁じられています。ということで、この先一切食べ物を取り出すことができないため、私たちも正面に緑岳を望む絶景を眺めながら、ここでお弁当を使いました。

昼食を済ませて最後の登りにかかります。

道ばたに普通に雪渓を見ることができます。

高原沼の上部を巻いて反対側へ出てきました。

高根ヶ原の直下を進みます。なんだかすぐ登れそうなくらい近くに見えますが、約200mの高さがあります。
このあたりまで来ると人影も疎らになって、息をのむ絶景を独り占めしているような、とても贅沢で至福の時間に浸ることができました。

沼巡りコースの最後を飾る「空沼(からぬま)」です。コースの中で最大の沼で、雪解けの時期には満々と水を湛えていますが、この時期はご覧のようにほとんど干上がっています。
沼を彩る緑の苔と周囲の紅葉が見事なコントラストをみせています。いつまで見ていても名残が尽きません。

沼巡りに別れを告げて、ヤンベタップの沢に沿って帰途につきます。
道ばたにエゾオヤマリンドウ(蝦夷御山竜胆)が咲いていました。

山のお天気というのは、朝は晴れていても、お昼を過ぎると雲が湧いてきて陰ってくることが多いのですが、この日は日の入りまでずっと素晴らしい快晴の一日でした。
沼巡りは基本的にはすべて「登山道」を歩きます。 「遊歩道」ではないのでトレッキングシューズは必携ですが、危険な箇所はありません。ただし、道とも川ともつかない所を何箇所も渡渉するため、雨のあとはもちろん、お天気が良くてもけっこう難渋するので、長靴があると足元を気にしないでガンガン歩けて疲れ方が全然違います。管理人はWeb情報に従って自宅から(!)持参しましたが、現地で借りることもできるようです。もし「来年でも行って見ようかな」という方がおられたら、長靴の用意を強くお奨めします。

ヤンベ温泉を見下ろす高台まで戻ってきました。下から上がっている白い煙は温泉の蒸気です。90℃近いお湯が自噴している場所で、「温泉」といっても入浴はおろか手を浸けることもできません。

無事、大雪高原温泉へ戻ってきました。正面の「大雪高原山荘」はもちろん宿泊できますが、6月から10月(今年は10/10迄)の期間営業のため、予約が大変取りにくいと聞いています。日帰り入浴(700円)もできるので、時間があれば下山後に立ち寄るのもいいでしょう。

沼巡りコースは、案内書では一周約7km、所要約3.5時間とありますが、管理人は写真を撮りながら歩いたので6時間弱かかりました。それでも、15時までに下山という「門限」があったので、自分としてはかなり端折りながら撮ったところも多く、時間制限がなければ日没まで一日中撮っていたことでしょう(笑)。

誰しも「心に残る忘れられない風景」というものがあると思います。それらは、たいていの場合、思いかげない幸運に恵まれて出会うことが多く、それだけに強烈な印象でいつまでも記憶に残っています。
今回、素晴らしい晴天とまたとない見頃という幸運に恵まれ、息をのむ絶景の連続に心震える一日を過ごすことができ、間違いなく私の「心に残る忘れられない風景」のひとつになりました。
管理人の訪れた翌日からお天気は下り坂になり、その翌週には初雪が予報されていました。今年の沼巡りは10/9で終了となりましたが、監視員の方々のお陰でヒグマとの遭遇事故もなく、無事シーズンを終えたようです。町道高原温泉線も10/11で来年6月までの冬季閉鎖に入り、大雪高原沼は冬の長い眠りにつきました。
まさに「短い秋の最後の輝き」をカメラに収めることができ感慨ひとしおのものがあります。


次回(11/10予定)は、今号で掲載できなかった、層雲峡およびその周辺の紅葉をご覧いただきます。ぜひお立ち寄りのうえご笑覧ください。