(2011.10.23)


   

 

 

  

関東平野の北部、茨城県古河市付近には、埼玉県/群馬県/栃木県/茨城県の4つの県境が集中しています。厳密には、4県境が1点で交わっているわけではありませんが、これだけ狭い地域に4県境が集中している場所は珍しい(此処だけ?)かと思います。

実際の県境は右下の地図のように複雑に曲折しているため、県道9号(佐野古河線)を古河市内から北上すると、僅か10キロ足らずの間に、茨城県(古河市) → 埼玉県(加須市) → 栃木県(栃木市) → 群馬県(邑楽郡板倉町) → 栃木県(栃木市)、と目まぐるしく県名が変化します。

このあたりは、渡良瀬(わたらせ)遊水地の西縁にあたり、県境がこんなに入り組んでいるのは、遊水地を縦断する渡良瀬川のかつての流路がそうであったからと思われますが、学区や消防/救急やゴミ処理といった生活関連の行政サービスで不便はないのか心配してしまいます。

渡良瀬遊水地は、そのほとんどが栃木県栃木市に属し、内部の総面積は約33kuあります。ほぼ千葉県流山市の面積(約35ku)に相当する広さですから、いかに広大なエリアかお分かりいただけると思います。

明治の後期、渡良瀬川上流にある足尾銅山からの精錬排水に含まれる鉱毒が、流域の広い範囲に堆積して大きな被害をもたらしました。わが国の公害の原点ともいわれている事件で、世に言う「足尾銅山鉱毒事件」です。

1905(明治38)年、その鉱毒を沈殿させる目的で、遊水地を設けることが決定されたのが、渡良瀬遊水地の始まりです。当時、ここ(栃木県下都賀郡谷中村)は鉱毒反対運動の根拠地でもあったため、地元の激しい抵抗があったようですが、最終的には谷中村の全域が収用されて、1906(明治39)年には強制廃村という、今では考えられない荒っぽい執行振りに時代を感じざるを得ません。

谷中湖以外のエリアは、台風や豪雨の際に渡良瀬川の流水をいったん蓄え、利根川への放流量を調整して、下流域の溢水を防ぐのが目的のため、ふだんは手つかずの自然が拡がっています。その一部は地元自治体により運動公園や多目的広場として整備されていますが、ほとんどは遮るもののない広大な葦原で、本州ではなかなか目にすることがない、胸の空くような雄大な景観です。

「熱気球の話はどうした」、「いつまで脱線しているのか」とお叱りを受ける前に、渡良瀬遊水地のウンチクはこのあたりで切り上げて、本題に移らせていただきます。

上の地図の水色の部分だけが渡良瀬遊水地ではありません。水色の部分は谷中湖という貯水池で、これだけでも面積4.5ku/外周9.2qありますが、渡良瀬遊水地というのは、谷中湖とその周囲の緑色の部分を含む全体を指します。
これだけ広大な空間を利用するといえば、当然「スカイスポーツ」ということになり、熱気球をはじめ、スカイダイビングや小型機のクラブが活発な活動を行っています。

とくに、熱気球は風まかせのため、その飛行には広い空域が必要なことから、渡良瀬遊水地は関東地方では屈指の飛行エリアとして、熱気球のメッカとなっています。また、「熱気球ホンダグランプリ」の会場にもなっていて、全国から集まったカラフルな気球が会場を彩ります。

「熱気球ホンダグランプリ」は1990(平成2)年からホンダがスポンサーになって運営している全国大会で、渡良瀬>佐久>鈴鹿>佐賀>栃木を転戦し、全5戦を競って年間総合優勝を決定します。渡良瀬会場では毎年4月に第1戦が開催されますが、今年は東日本大震災の影響で延期になり、10月8日〜10日の3連休に全国から23機が参加して開催されました。
熱気球というのは、ガスバーナーを焚いて、球体内部の温度を加減することで、上昇下降を操作しますが、プロペラも舵もないので、高度によって変化する風を上手く捉えて目的地へ向かうという、何ともデリケートな乗り物のため、飛行は気流が安定している早朝が中心になります。

第1日目(10月8日)の早朝に行われた競技飛行の模様をご覧いただきます。この日は本州全体が移動性高気圧に広く覆われ、終日、穏やかな好天に恵まれて、絶好の「気球日和」となりました。

地上天気図 (2011/10/8 06:00)

850hPa(約1,500m) 高層天気図 (2011/10/8 09:00)
午前6:30、標柱に緑の旗が上がると競技開始です。離陸場(Launch Area)にあてられた渡良瀬運動公園のソフトボール場では、各機が一斉に送風機を始動させて、先ず球体の内部に風を送り込みます。
球体があらかた膨らんだところでバーナーに点火すると、気球が一気に立ち上がり離陸準備完了です。早い機体は送風開始から10分くらいで離陸上昇していきます。

各機、朝日を球体に浴びながら、目標地点を目指して次々と飛び立っていきます。

大会のオフィシャルバルーンもゲストを乗せて離陸準備完了です。

ご存知「アシモ」君をデザインしたオフィシャルバルーンです。

それにしても、ホンダというのは「飛びモノ」が好きな会社で、埼玉県桶川市にはホンダエアポートという軽飛行機用の飛行場を運営している他、小型ビジネスジェット(右の写真)の開発にも成功して航空事業へ本格進出しつつあります。

ちなみに、ホンダのオートバイについているエンブレム(上の写真)が「ウイングマーク」になっているのも、故本田宗一郎氏の「空」への思いが込められているとのことです。
競技機が出発したあとは、熱気球の体験搭乗や、モーターパラグライダーのデモ飛行、といったアトラクションが行われました。


第2日目(10月9日)の夜間には、「バルーンイリュージョン」という催しが行われました。これは、係留した気球をバーナーの炎で内部から照らし、暗闇に球体を浮かび上がらせるという趣向です。

送風機で膨らんだ球体にバーナーで一気に熱風を送り込みます。

係留した15機の熱気球が一斉にバーナーに点火すると、大勢の観客から歓声が上がっていました。

フィナーレには、花火も打ち上げられて、大いに盛り上がりました。