(2009.8.2)
国土交通省所管の独立行政法人で「航海訓練所」というのがあって、東京海洋大学海洋工学部(旧、東京商船大学+東京水産大学)、神戸大学海事科学部(旧、神戸商船大学)や、商船高等専門学校(全国に5カ所)などに学ぶ学生のうち、乗船実習が必要な航海課と機関課の学生を受け入れて、わが国海運界の将来を担う人材を養成しています。 航海訓練所では航海実習のための訓練船を5隻保有していて、そのうちの2隻が今回ご覧いただく日本丸と海王丸という「帆船」です。動力船の時代にあって今さら帆船…という気がしますが、帆船はすべての操作を人力で行うため、操船の原理と航海に関する基本動作を、文字通り身をもって習得できることから、貴重な実習の場として今も活躍しています。 |
こちらの帆船が初代日本丸(総トン数2,278トン)で、1930(昭和5)年の建造で今年79歳になります。1984(昭和59)年に退役するまでの54年間に、延べ183万km(地球を45.4周)を航海し、約11,500名の実習生を育てました。現在は2代目・日本丸にバトンを渡し、ここ横浜の地で静かに余生を送っています。 |
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日本丸の後のビルは、みなとみらい21地区の文字通りランドマークともいうべき、ランドマークタワービル(70階建=日本最高層)で、48階までがオフィスフロアー、49階から上層は横浜ロイヤルパークホテルになっています。 |
日本丸が浮体展示されている場所は、今ではこうして近代的なビルに囲まれていますが、もとは横浜船渠(現、三菱重工)の旧1号ドックで、これまた1898(明治31)年建造という「歴史遺産」で、2000(平成12)年に国の重要文化財に指定されています。 |
一帯は「日本丸メモリアルパーク」として整備されていて、横浜港をテーマにした「横浜みなと博物館」も併設されています。日本丸の船内も公開されていて見学することができます。 |
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こちらは前部船橋(ブッリジ)です。ここで操船するのは機走時のみで、帆走時は帆の状態を見ながら船の後部にある巨大な舵輪で操船します。 |
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上の写真は船長公室、下の写真は士官サロンの天井にあるステンドグラスです。 | |||
船の帆は普段は帆桁(ヤード)に畳まれていますが、年に十数回(2009年は13回)、職員と訓練を受けたボランティアにより、全ての帆を拡げる「総帆展帆(そうはんてんぱん)」が行われます。また、毎年6月2日の開港記念日や祝日などには、国際信号旗で帆柱(マスト)を綴る「満船飾」が行われ、更に「海の日」には、総帆展帆に先だって、帆船の最高儀礼である「登檣礼(とうしょうれい)」も行われるため、この日はとても豪華で盛り沢山のプログラムを見ることができます。 |
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作業員がスルスルとマストに上っていきます。メインマストの先端は水面から46メートルの高さ(約15階建てのビルに相当)があり、ここはドックの中なので静かなものですが、外洋を航行中は風と波で相当揺られることと思われます。 |
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登檣礼は各ヤードに人員を配して行う帆船で最高の礼式で、舳先の先端(バウスプリット)に立つ指揮者が船尾方向を向き、「脱帽」、「海の日おめでとう」の号令に合わせ、全員で「海の日おめでとう」と発声しながら帽子を振り、これを3回繰り返します。一糸乱れない所作はなかなか壮観です。 |
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ちなみに、艦艇の場合は「登舷礼(とうげんれい)」がこれにあたり、乗組員が舷側に直立整列して表敬します。 | |||
登檣礼が終わると展帆作業が始まります。帆は大小合わせて全部で29枚あり、展張する順序が決まっていて、詳しい説明は省略しますが、風下(船首)側の帆から、マスト下部の帆から、拡げるのが原則のようです。 |
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総帆展帆には毎回約100名の方が従事していますが、ボランティアの中には女性の方もたくさん見かけました。 | |||
約1時間で展帆作業が完了し、現役当時の優美な姿を現しました。また、この日は祝日(海の日)のため、満艦飾も行われました。なお、(今回は取材していませんが)午後3時からは畳帆作業を見学することができます。 |
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毎年、海の日の前後に国土交通省の肝いりで「海フェスタ」という催事が行われていて、今年は開港150周年で賑わう横浜で開催され、そのイベントの一環として、日本丸と海王丸(いずれも2代目)が揃って横浜港の大桟橋に着岸し、こちらも総帆展帆を行いました。 余談ながら、大桟橋の向こう側に煙突を覗かせているのは、客船「ぱしふぃっくびいなす(26,594トン)」<右写真>で、皆既日食ツアーの観光客を乗せて、この日の夕方に小笠原方面へ向けて出港しました |
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