(2007.6.17)


   

 

     

旅行会社のチラシなどでツアー情報を丹念にチェックされている方は、「足立美術館」の名前をご存知のことと思います。「出雲大社・足立美術館と鳥取砂丘・天橋立を巡る2泊3日の旅、4万円から!」(←関東出発の場合)というような具合に、いまや山陰観光で外すことのできない立ち寄りポイントになっているようです。なかには、「あの足立美術館」などと、ツアーの目玉に祭り上げているのもあります。

余談ながら、お泊まりは皆生温泉(鳥取県米子市)や城崎温泉(兵庫県豊岡市)というのが多いようですが…(笑)。

足立美術館は、横山大観のコレクションと日本庭園が有名なことから、
N's TOWNでも長らく取材候補地にあげていたのですが、ツアーでちょっと「立ち寄る」だけではとても鑑賞しきれない規模のため、しかし個人でふらっと出かけるにはあまりにも遠すぎるため、実現に至らないまま今まで機会を窺ってきました。今回、訳あって(?)、遂に「あの足立美術館」を訪れることができたので、その様子をご覧いただきます。

安来(やすぎ)市というのは、島根県の東端(お隣は鳥取県米子市)にあり、あの安来節で有名なところで、宍道湖につながる中海に面した市街地から、飯梨川という川に沿って車で20分ほど遡った山間に、足立美術館があります。

足立美術館は、当地の実業家である足立全康氏(1899年〜1990年)によって、1970年(昭和45年)に創設された私設美術館です。足立氏は幼少の頃より商才に秀で、木炭の運搬・小売を手始めに、種々の事業を興し、戦後は大阪に出て繊維問屋や不動産関係で成功を収め、「男おしん」の異名をとる立志伝中の人物ですが、この辺りのことはあちこちで紹介されているので端折ります。

(足立美術館正面玄関)
その足立全康氏が、氏71歳の時(1970年)に、郷土への恩返しと島根県の文化発展の一助となればという篤志で、個人蒐集した美術コレクションをもとに、氏の生誕の地であるこの場所に、足立美術館を創設したとあります。

正面玄関は何の変哲もない、というか田舎の町役場のような構えで、とてもその奥に13,000坪もの日本庭園が拡がっているとは思えません。この庭園は、米国の庭園専門誌「
Journal of Japanese Gardening」により、2003年〜2006年の4年連続で「庭園日本一」に選ばれています。ちなみに、2位以下にも、桂離宮(2位)、栗林公園(5位)、二条城二の丸庭園(8位)、といった錚々たる庭園が名を連ねています。
「庭もまた一幅の絵画なり」(足立全康氏)の言葉どおり、美しい日本庭園の風景と巨匠たちの名画名品とが、高い次元で共鳴しあって、訪れる人に期待と感動を抱かせつつ、2階の展示室へと誘う心憎い趣向になっています。

この美術館の主庭である「枯山水庭」です。この日は夜来の雨が上がって、遠くの山には雲霧が立ち昇り、ちょっと大観の「雨霽(は)る」のような趣もありました。春のツツジ・サツキ、夏の新緑、秋の紅葉、冬の雪景色と、四季折々の装いを楽しむことができるとあります。この庭は室内からガラス越しに眺める格好になるので、若干の写り込み(下の写真の右上隅)はご容赦ください。

窓がそのまま額縁のようになっていて、黒い縁取りで切り取られた庭園は、さながら一幅の名画です。

茶室へ続く露地の苔庭です。この茶室は桂離宮にある「松琴亭」に因んで建てられたもので、裏千家の先代家元、15代千宗室氏によって「寿立庵」と命名されています。

鯉が泳ぐ池庭です。足立美術館には全部で6つの庭園があります。
茶室の床の間の壁をくりぬいて、そこから見える景色を「掛け軸」に見立てた趣向です。

「白砂青松の庭」です。大観の「白砂青松」をイメージした庭園で、白砂と松のコントラストが印象的です。

←ココをクリックすると上の写真の拡大画像が見られます。
収蔵品についての解説は、N's TOWNのテーマではないので、ここでは触れませんが、横山大観のコレクションは世界一の規模といわれており、幻の名作として有名な「海山十題」全20点のうち8点を当館で所蔵している、という一事だけでその充実振りを十分窺い知ることができます。


(お断り) 館内は撮影禁止なので、展示室の写真はありません。