(2003.11.30)


 

 

錦秋の大和路

 

関東地方の方にとって奈良というと「修学旅行」というイメージかと思います。実際、修学旅行で行ったきり、という方も少なくないのでしょうか。京都と並ぶ「二大古都」のわりには、いまいち集客力に欠け、何か後塵を拝するような印象があります。

紅葉ひとつとってみても、奈良には嵐山・洛北・東山のような構えて妍を競う華やかさはありませんが、どこか大陸的な佇まいを漂わせる社寺を紅葉が静かに彩る渋い名所が実はたくさんあって、京都とは別趣の飽きない魅力があります。

そこで、今回は奈良公園と近郊の社寺を中心に、深まりゆく大和路の秋をご紹介し、奈良の魅力を再発見してもらおう、という壮大な趣向に挑戦しました。今年の紅葉は間もなく終了しますが、来秋はぜひ奈良にも足を伸ばされてください。

     

 

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奈良の鹿が天然記念物に指定されていることをご存知の方は少ないかと思います。現在、約1,200頭が奈良公園と春日大社境内を中心に棲息しています。これらはすべて野生の鹿で(誰かが飼っているわけではありません)、市街地でこれだけまとまった群落を見られること自体が貴重です。

「奥山に 紅葉ふみわけ 鳴く鹿の 声きく時ぞ 秋はかなしき (猿丸太夫)」

こんな標識があちらこちらにあります。
大仏殿の裏から二月堂に至る小径は「二月堂裏参道」と呼ばれていて、土塀や石段の緩い勾配が何ともいえない風情を醸し出しています。この坂道を素材にした作品は枚挙にいとまがなく、司馬遼太郎の「街道をゆく」にも次の一文があります。

二月堂へは、西のほうからやってきて、大湯屋や食堂のずっしりした建物のそばを通り、若狭井のそばを経、二月堂を左に見つつ、三月堂と四月堂のあいだをぬけて観音院の前につきあたり、やがて谷をおりてゆくという道がすばらしい。(第24巻「奈良散歩」)

「水取や籠りの僧の沓の音 (芭蕉)」


右の道標は「右、大ぶつ、二月どう、手向山八幡」と書いてあります。
二月堂の隣にある手向山八幡宮です。東大寺建立時の守護神として宇佐八幡宮を勧進したもので、鎌倉時代にここに移されました。

「このたびは 幣(ぬさ)も取りあへず 手向山 紅葉の錦 神のまにまに (菅原道真)」と詠まれたのがここで、古くから紅葉の名所だったようです。
二月堂から若草山の麓を通って春日大社へ向かう途中にある茅葺きの一服処で「水谷茶屋」といいます。
奈良公会堂の近くを流れる吉城(よしき)川の両岸には、川面を覆うように紅葉が枝を伸ばしています。吉城川は春日山原生林に源を発し、奈良公園を横切って依水園(池泉回遊式庭園)を潤し、佐保川を経て大和川に注ぎます。
奈良市郊外の山中にある正暦寺です。創建当初は堂塔伽藍が辺りを払っていたようですが、その後、兵火に焼かれ、現在は一部の建物(重文・福寿院)に当時の面影を偲ぶのみです。
奈良盆地の南縁に位置する大宇陀町というところにある大願寺です。イチョウの黄金色は日本の晩秋になくてはならない彩りです。東屋の屋根に降り積もったイチョウの黄葉が朝日に輝いていました。
 

 このページの壁紙およびタイトルバックアニメは「幻影素材工房」さんから拝借しました。