(2002.-6.-2)

写 真 館

アヤメ咲く北総の小江戸


「お江戸見たけりゃ佐原へござれ、佐原本町、江戸まさり」という唄があるそうです。「お江戸見たけりゃ高崎田町…」という唄も聞いたような気がしますが、どちらも地方都市ながら江戸に勝るとも劣らない賑わいを極めたということでしょう。ということで(どういうこと?)、行って来ました千葉県佐原(さわら)市、題して「アヤメ咲く北総の小江戸」、久し振りのロケで全点撮り下ろしです。ごゆっくりどうぞ。


利根川の左岸はすべて茨城県とばかり思っていたら、千葉県佐原市の一部が入り込んでいて、そこに市立水生植物園があります。ここの目玉はなんといってもアヤメで、アヤメ祭り(今年は6/1〜30)の期間中は普段200円の入場料が700円になります。150万本の花菖蒲が妍を競って咲き乱れる園内を女船頭(ただし、皆さんかなりご高齢)が操る小舟(サッパ舟)で巡ることができます。

佐原は利根川とその支流の小野川に沿って開けた町で、江戸時代には河川商業の中心地として発展しました。当時の隆盛を今に伝える河岸問屋、醸造元、商家といった情緒溢れる建造物が数多く残っていて、町ではこれらの保存と景観の維持に力を入れています。また、佐原は伊能忠敬を育んだ町としても知られていますが、伊能家も代々酒造業や米穀販売・舟運業で財を成した佐原屈指の素封家でもあります。



「いずれアヤメかカキツバタ」、それにハナショウブもあって、花に疎い管理人にはよく分かりません。これは、花弁の形が蝶が舞うような姿をしています。
ハナショウブは古くから観賞用花卉として交配と品種改良が重ねられ、大きく江戸系と肥後系の2派に分かれるほか、それぞれに京舞・高雄錦・長良川などといった雅な銘がつけられています。
園内の水路をサッパ(笹葉)舟で巡ります。また、水生植物園の近くからは、「佐原加藤洲十二橋巡り」の遊覧船も出ていて、船頭さん(おばちゃん)の客引きパワーに圧倒されます。
小野川沿いの旧市街は国の「重要伝統的建造物群保存地区(物々しい…)」に指定されています。このタイムスリップしたような景観を活かして映画のロケにもよく利用されているとか。正面の建物は伊能忠敬の旧宅です。
香取街道沿いにある福新呉服店。文化元年(1804)創業、建物は明治28年(1895)建築で、県の指定文化財になっていて現在もここで営業されています。
同じく香取街道沿いの正文堂書店。明治13年(1880)の建築で、登り龍・下り龍を配した看板がひときわ目につく。建物全体が土蔵づくりで、2階の開き窓も重厚な作り。こちらも営業中ですが、書店の方は雑誌中心の「ごく普通の本屋さん」でした。
正上醤油店。寛政12年(1800)創業、建物は天保3年(1832)の建築で、県の指定文化財になっています。正面左手の袖蔵(最後の写真参照)は明治初年の建築とか。戦後は佃煮の製造販売が主になったとのことで、川エビや小魚など地元の魚介類を串刺しにして佃煮にした「イカダ焼き」が名物。

道路に面した店舗(みせ)の間の奥が居宅になっているつくりで、どの家も間口の割りには奥行きがあって、京都のような区画割りになっています。

店の入口柱に左のような標識を見つけました。こういう「小道具」(もちろん本物)も時代を感じさせます。

(←この写真は拡大画像がありません)
旧三菱銀行佐原支店。大正3年(1914)建築、赤レンガに花崗岩を配したルネッサンス調のデザインが当時を偲ばせます。辰野金吾(東京駅を設計)の師弟筋にあたる人が設計したとのことで、そう言われれば屋上のドームが東京駅のそれと似てなくもないような気がします。当地では「三菱館」と呼ばれていますが、現在は市に寄贈されて一帯の観光案内の拠点になっています。それにしても、三菱銀行がこれだけの支店を置いたというだけでも、佐原の隆盛振りが伺われます。
町の辻々にもアヤメの植え込みがあって、潤いと彩りを添えています。
小野川の両岸に「歴史的建造物」が集中し、倉敷や城崎温泉のような風情を漂わせています。正面が正上醤油店の袖蔵、その左の一見ブロック塀のような石づくりの建物が現在の店舗(!)です。